第2話 新幹線に11時間閉じ込められた話②


 階段を駆けあがってみたものの、ホームでは人々が手持ち無沙汰で歩いており、発車する気配はまったくなかった。

 発車の音がしたが、それは逆のホームだった。

 逆のホームでは新幹線が動き出したらしい。


 座席に戻って何かアナウンスがあったかと家族に聞く。

 家族が何もないと答えたが、逆のホームの新幹線が動いたのを見ていた。

「向こうが動いたなら、こっちももうすぐでしょ。12時頃には動くんじゃない。こっちのほうが東北に行く側だから遅いかもだけど」

 新たなアナウンスがあった。


「安全の点検をしておりますが、現在のところ復旧の目途が立っておりません。再開時間は未定です」

 未定という言葉に不安を感じていると、続いてこんなアナウンスがあった。

「この電車では車内販売はございません。ホームには自動販売機があり、駅構内には売店がございます。こちらのホームには喫煙所はありませんが、別のホームには喫煙所がありますので、お煙草をお吸いの方はそちらをご利用ください」


 つまりはタバコを吸いに座席を離れて隣のホームに行っても全然平気なくらい、しばらく発車しないということである。

 再び、自分はホームに出て歩くことにした。

「ずっと車内にいると良くないから」


 外の空気を吸おうと言う人は親子連れ以外にも増え、大人もベンチに座って、本を読んだり、スマホを見たりしていた。

 自分も本を持って来れば良かったなと思いつつ歩いていると、子供がトイレに行きたいというので、狭い新幹線のトイレではなく、駅のトイレに行くことにした。

 大宮駅のトイレは綺麗だったので、その点も駅にいて良かった。


 しばらくして戻ると、今度は家族のほうがホーム下に降りて来ると言った。

 そこで私はあることを思いつき、家族に頼んだ。

「駅員さんに駅の外に出られるか、聞いてみてくれる?」

 家族は自分で聞けばいいのにと嫌な顔をしたが、さっきホームの下に降りてみた時、駅員さんたちが総出で忙しそうで、声が掛けられなかったのだ。


 ブツブツ言いながら車両の外に出た家族。

 しかし、買い物袋を持って帰りながら、意外そうな顔をして帰ってきた。

「駅の外に出てもいいって」


 思った通り、駅の外に出られそうだった。

 なので、自分は家族のほうに先に出かけていいと言った。

「もうすぐお昼だし、駅の外に出てご飯食べるなり、買って来るなり、何か見て来るなりしていいよ」

 新幹線が大宮駅に着いて、すでに1時間半ほどが経過していた。


 “安全点検のため運転を見合わせております。お客様にはご迷惑をおかけしますが、しばらくお待ちください”

 そんな感じのアナウンスは再三流れるが、見通しについては全然言わない。

 この“しばらく”という表現が曲者で、それを信じて、まったく席から動こうとしない人もいた。

 小さな子供たちを連れている親御さんの中にも、乳幼児がいると移動速度が遅くなり、もしもの時に乗り遅れるのが不安なのか、車両の外にも出ない人もいた。


 自分の家族も外に出てきていいというこちらの提案にちょっと悩んでいた。

「いや、でも、あまり遠くに行くのは……」

 家族がそう首を振った時、新たなアナウンスが流れた。

「皆様にはご迷惑をおかけしております。再開時刻は16時の見通しです」

 それまで落ち着いていた車内がざわつく。

 なにせまだ12時近くなのだ。

 それで16時に動くと言われても、まだ4時間以上ある。

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