第3話 新幹線に11時間閉じ込められた話③
「じゃあ行ってくるよ」
家族が出かけて行き、自分と子供が残った。
自分は12時になると、朝作ってきたハンバーグ弁当を子供に食べさせた。
子供は好きな物が入っているお弁当なので機嫌良く食べた。
自分はというと、朝に妙にいっぱい食べたおかげでお腹は空いていなかったからお茶だけ飲んでいた。
家族との連絡はLINEがある。
それにはやぶさの座席にはコンセントがあり、充電器もちゃんと持って来ていたので、充電も出来たのが良かった。
駅の外に出た家族からこちらの状況を聞くLINEがあり、子供がハンバーグを食べているという説明をした後、新しい放送があった。
「安全点検を開始しました」
お、始まったかと思い、家族にLINEで安全点検が始まったことを連絡すると「すぐ帰る」と返信があった。
しかし、続くアナウンスは期待を砕くものだった。
「再開時刻は16時とお伝えしておりましたが、点検終了時間は未定となっております。お客様には……」
空虚な謝罪の言葉と共に、再び車内がざわつく。
「ご旅行を取りやめにされる方は払い戻しをいたしますので……」
そのアナウンスにあきれたような声が聞こえた。
「そんなこと言ったって新幹線だけを予約しているんじゃないのに……」
仕事や旅行などで宿を取っている人もいるのだろう。
そういう人からしたら、お金は返してやるから降りろと言われても困るに違いない。
小さい子連れの人たちは帰省なのか、迎えに来てくれると言ってたけど連絡しなきゃとか話していた。
それでも数人の人たちは降りて行った。
後から知ったのだけど、そういう人たちはコンサートなどに間に合わせるために、大宮駅で降りて高速バスを使うとか別の手段を取ったらしい。
そういうのに詳しくない自分は思いつかなかったし、同じく思いつかなかった人も多いと思う。
結構な数がそのまま新幹線に残った。
手段として知っていても出来なかった人もいるだろう。
乳幼児を連れている人は高速バスで移動するのは大変だ。
自分の車両にいた親御さんたちは辛抱強く、子供が泣いたり怒ったり「なんで出発しないの?」とか言っても、怒鳴ったりせずにきちんと説明したり、なだめたり、車両の外に遊びに行ったりしていたが、いつになるかわからない不安は子供にも親にもあった。
自分は再開時間が未定になったことを家族に伝え、ゆっくりしておいでと伝えた。
家族から鉄道博物館に行くかという提案があったが、大宮駅から歩いてそれなりに時間がかかるはずだ。
2時頃にそんな話をしていたのだが、心のどこかで発車が早まると困るし、往復だけで時間かかるかもだしといまいち踏ん切りがつかず、断った。
家族が帰ってきて自分は子供を連れて駅の外に出ることにした。
大宮駅の駅員さんが手すきになっていたので、出る前に状況を確認した。
「16時より前に発車することはないですか?」
「はい。16時より前に動くことは絶対にないです」
それより遅れそうな感じで話しており、16時より前に動くことは絶対に無いということだったので、私は安心して改札で新幹線のチケットを見せて、また入れることを確認して、外に出た。
この時の駅員さんの言葉を信じてしまったのが、後で大変なことになる。
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