第6話 新幹線に11時間閉じ込められた話⑥

 「新幹線、何回停まるの」と怒っている人もいた。

 コンサートの開始は夕方以降だろうけれど、再開してすぐに普通に走ると思っていたら、繰り返される停止に焦りを覚えたことだろう。


 こんな風に何度も止まるなら、言ってくれれば他の手段を使ったのに、と悔しい思いをした人もいるかもしれない。

 在来線に切り替えたら良かったのかなとも思ったけれど、在来線も地震で止まっていたり、また新幹線のほうを優先するために足止めされたりで大変そうだった。

 

 自分が車両の中で感じていたように、すぐには着かないこと、何度も停まることを言っておいてくれればという気持ちになった人たちもいたようだ。

 喉が渇いた、座りっぱなしで体が痛い、情報が欲しいと書いてる人もいた。


 情報の少なさは車内にいる身としては理解できた。

「お客様にはご迷惑をおかけして……」を繰り返すばかりで、先の見通しを説明しないアナウンスばかりだった。


『地震で新幹線が止まるのは仕方がない』とみんな理解していたが、その後の対応の悪さに苛立つ人が多かった。

 小さい子たちも親が情報の入らない不安を抱えているためか、それを察して泣いたりしていた。


 とにかく新幹線が進まない。

 大宮から仙台まで70分かからないのがはやぶさの売りなのに、まったく進まない。


 ちょっと進んでは停まるばかりで、後ろの人がイライラしていた。

「お客様にはご迷惑を……」

「そんなこと言うなら早くして、どうなりそうなのかちゃんと言って」

 アナウンスにも怒っている声が聞こえた。


 早くは出来ないにしても、もう少し情報を伝えてくれたらいいのにとは自分も思った。

 途中、本来ならはやぶさが停まらない駅にも時間調整のために停まる。

 外のホームには自販機が見えるのに降りられないのがなかなか辛い。


 しかも、数分で出るなら仕方がないが、何十分といるのに出られないのだ。

 喉が乾いて脱水状態だった人からしたら、相当辛かったに違いない。

 誰かがレバーを引いて勝手に降りるような真似をしなかったのは、乗客が我慢強かったためである。

 

 座席を離れて、電話をしに行く人が増えた。

 仕事の取引先、約束していた友達、待っている親族、予約していた店、泊まる予定だったホテルに連絡しているらしい。


「はい、19時頃にはつけると思うのですが……」

 本来、10時20分発のはやぶさなら仙台に12時前に着くはずなので、夕食の予約をしていたなら相当に時間の余裕があったはずだろうが、19時にも着けるかわからないという連絡をしているのはかわいそうだった。

 Twitterでは待つ側の悲鳴も上がっており、お客さんが新幹線の遅れで来られないから残業という人もいた。


「こんなに動かないなら最初から言ってくれればいいのに」

 そうボヤく声も聞いた。

 確かにこんなに半日潰れるほど動かないとわかっていたら、もう昼前の時点で切りかえて降りて、今日は大宮に泊まって明日行くと決めるとか、他の手段を考えるとかした人もいただろう。


「ママ、お腹空いた……」

 か細い声も聞こえた。

 私は適当にちょろちょろと動いてお弁当を買って食べたり、駅の外に出て遊んだりしていたが、真面目な人は新幹線が出ては大変と座席から動かなかったようだ。


 そのため、お昼も食べられず、おやつもなく、外が暗くなっているのに夕食も食べられそうにないという人が続出していた。

 座席から動いていないため、体がみしみしするという人もいただろう。


 ネットを見ると、乗車率がものすごく少ない時だからかなりマシだったという意見もあった。

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