偶然発見された野生児の正体を、ミステリー風味で解き明かしていく物語

 主人公の考古学者は、とある孤島で野生児を発見しました。ただの野生児ではなく、人間離れした力を持つ恐ろしい個体でした。

 ただし考古学者は、この野生児がどれだけの身体能力を持っているのか確認する前に、彼のことを気に入ってしまい、人里に連れ帰ることになります。

 これが悲劇の始まりでした。

 力を持て余した野生児は、人間界の悪意に触れたことで、人を殺すことになってしまうのです。

 たとえ相手が悪人であっても、状況と前置きが成立しなければ、殺人として罪を問われることになります。

 そんなことをつい最近まで孤島で暮らしていた個体に理解できるはずがありません。

 また野生児にも理解するつもりがありませんでした。

 ついには野生児は追っ手である衛兵まで手にかけてしまい、国家の敵になります。

 生命体というのは、集団生活をする際には、必ず一定のルールで暮らすことになります。反社会的な集団ですらこの制約が適応されているわけですから、国家の敵になれば居場所はありません。

 しかし野生児のルールというのは、まさしく大自然の弱肉強食が基準です。彼にしてみれば、人間社会のルールのほうが間違っているわけです。

 であれば、誰が人間社会と大自然のルールのコンフリクションを起こしたかといえば、野生児を連れてきた考古学者です。

 しかし考古学者は野生児のことを家族だと認識しているため、国家の敵になることを躊躇しません。たとえ野生児の正体が判明していなくてもです。

 もちろん考古学者だって、野生児の正体をきちんと調べたいんですが、残念ながら国家の敵になってしまえば、追われる身になるため、もはや時間が残されていません。

 まるでタイトロープの上で、辞書を引きながら決闘しているような物語になっていきます。

 そんな物語を読み解く肝というのは、野生児の正体が判明したとき、読者が考古学者と国家の判断のどちらに重きを置くのかにあるといえるでしょう。

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