第4話
不本意にも、死神の体の柔らかと暖かさに意識を持っていかれてしまい、一睡もできなかった。取引のおかげで寿命は延びたらしいが、これじゃ結局早死にしてしまいそうだ全く。
起きてから俺は手短に支度を整え、大学に向かう準備をする。
「ねええ、早く帰ってきてよおお♡」
「いだっ!」
乱暴に後ろから抱き着かれる。相変わらずの暴力的な体の柔らかさ…じゃなくって!!
「わかったから!はなしてはなして!」
むぅ、とファーラは一言こぼし、俺を解放する。俺は出発前に一応、ファーラに言葉をかける。
「えっと、ご飯は冷蔵庫に作り置きがあるから。あと一応、替えの服はそのクローゼットに。あと…」
俺の言葉を遮るように、ファーラは人差し指を俺の唇に当てた。
「優しいのね。けれど、ひとりで食べたっておいしくも楽しくもないから、気にしないで♡」
優しい声で、ファーラは俺にそう言った。どうやら俺が思っているよりも、彼女はしっかりしているらしい。俺は一言行ってくると告げ、彼女に見送られながら家を出発した。
大学へは電車で通っている。駅までは比較的近く、俺は普段通りの電車の、普段通りの位置に立つ。
さて、これからのことを真剣に考えなければ。前世を探すったって、どうやって探すんだ?ファーラには、人間時代の記憶は全くないようだし…
あれやこれやと脳内で試行錯誤をしていたところ、いくつかの駅にたどり着いていたようで、乗り込んできた一人の男に横から声を掛けられる。
「おう、司。おっはー」
声の主は、友人の日向小十郎。勉強もスポーツもてんでダメな奴だけど、明るく気さくなその性格で交友関係は広い。小十郎は会うなり俺の顔を見て、顔色の悪さを察してくれたらしい。
「なんだなんだ?徹夜でもしたか?」
「そういうわけじゃないんだけど、まあちょっとな…」
家に突然死神が押しかけてきて、不平等契約をさせられて、しかもいっしょに寝てしまったせいで一睡もできなかった…なんて言えるわけがない。
「ふうん、よくわかんないけど、司にひとつ頼みがあるのよ…」
…ろくな頼みが来る気がしないが、一応聞くだけは聞いてやろうと思い、小十郎の言葉を待つ。
「頼む!今日の試験カンニングさせてくれ!」
「はぁ…」
こいつ確か、今回の試験で出来が悪かったら留年決定だったか。俺は別に小十郎を助けてやりたいわけではないけれど、こういう面白そうなことは正直嫌いじゃない。バレたら俺も巻き沿いでどうなるかわからない、なんてスリルが、そうさせているのかもしれないが。
結局俺はその日、小十郎に共犯することとし、見事にやり遂げて見せた。
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