第6話

「じゃ、今日はありがとうな!この礼はいつかする!」


「ああ、気長に待ってるよ」


 帰りの駅で小十郎と別れ、帰路につく。いやぁ、あのバレるかバレないかのスリルはやっぱり気持ちがいい。友達のカンニングに手を貸すだなんて、やっていることは最低なんだろうけど、心の中は達成感で満たされている。普通に試験を受けて普通に単位をもらって普通に過ごすより、よっぽど刺激的で活き活きとした気分になれる。

 電車を降り、家を目指して歩き始める。正直、今でも昨日のことは夢だったんじゃないかと思っている自分がいる。帰ったらいつものように一人で、いつものように一人でご飯を食べて、一人で寝る。死神なんて、実はさみしすぎて俺の脳内が勝手に想像した存在なんじゃないかと思う。それくらいに、昨日の出来事は信じられないものだった。

 玄関の前につき、呼吸を整え、意を決して扉を開ける。


「た、ただいま」


 扉を開けた俺の目の前には、昨日に続き、またも理解できない光景が広がっていた。扉を開けたすぐ奥にファーラは立っており、俺を見るなりゆっくりと色っぽくこちらに近づいてきて…何も言わず口づけをされた。

 完全に固まってしまっている俺をよそに、今度は唇を俺の耳元まで寄せ、艶やかな声で囁く。


「おかえりなさいませぇ。ご主人様ぁ♡」


 …本当に、何が起きているのか理解ができない。百歩譲って、ファーラが昨日ここに来たことは夢ではなかったとして受け入れられるものの、この言動の正体は一体何なんだ。体が固まってしまって動かないため、俺は何とか目線だけを動かし、周囲の状況を確認する。

 …よく見ると、ファーラの髪型が変わっているような…それに来ている服も、同じ服ではあるものの、折り目が入れられていたりして、雰囲気が変わっている。例えるなら、メイド服のような…

 そこまで考えた時、俺の頭の中で一つの確信的な推理が浮かぶ。


「ま、まさかっ!!!!」


 俺は全力で部屋の中のある地点を目指して駆け出す。絶対に起きていて欲しくはない事だが、俺の推理が正しければ、まさかまさか…

 机の前にたどり着いたとき、推理が的中していたことを悟ったとき、生まれて初めての形容しがたい感覚に襲われる。後ろから追いかけてきたファーラが、嫌な答え合わせを口にし始める。


「うーん、どこか間違ってたかしら…この本には、年上の色っぽいお姉さんメイドがご主人を」


「うわああああああああああああああああああ」


 顔が真っ赤になり、火を噴きそうなほどの思いを感じ、大声を上げたところで意識を失った。

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