第7話

「…?」


 体の感覚がだんだんと戻ってくる。相変わらず顔には熱い感覚が残っているようだ。


「もう。いきなり大声上げて倒れるもんだから、死んじゃったかと思ったじゃない」


「…ん?」


 頭には、枕とは違う柔らかさの感覚がある。視線の先にはファーラがおり、こちらをむすっとした表情で覗き込んでいる。


「っ!!!」


「にゃあっ!!!」


 俺はとっさに上体を挙げる。どうやら信じられないことに、死神に膝枕をされていたようだ。…気分は悪くはなかったけれど、なかなかに恥ずかしいのですぐに起きてしまった。俺はそのまま時計を見て、あれからあまり時間が過ぎてはいないことを確認する。倒れていたのは、ほんの短い時間だけのようだ。

 俺は改めてファーラの方に視線を移す。恰好は帰ってきたときに見たままのようだ。今は少し頭も冷静になっているので、やりたくはないが答え合わせをすることにする。


「…それで、その格好にさっきのお出迎えは一体何なのよ…?」


 彼女は誇らしげにふふんと胸を張り、得意気に答えた。


「どうよ!死神のメイドよ!あなた年上メイドとか、そういうのが好きなんでしょう!隠さなくてもいいわよぉ♡」


 …やっぱり、見られてしまったらしい。机の一番下の棚に隠していた、いわゆるエロ本を…

 別にこいつを女として意識しているわけではないにしろ、恥ずかしいものは恥ずかしい。俺は顔の火照りを誤魔化すように、ため息をついてうなだれる。するとすぐにファーラが寄ってきて、その手で優しく頭をなで始める。


「どうですかぁ。気持ちいいですかぁ、ご主人様ぁ♡」


 分からない…お前は俺を一体どうしたいんだ…俺が再び大きなため息をついた時、突然ファーラの雰囲気が変わった。


「…それはそれとして…ねえ司、一つ聞きたいことがあるのだけれど」


 突然彼女から発されるシリアスな雰囲気に、思わず圧倒される。俺はゆっくり彼女の方を向き、続く言葉を待つ。


「ミミって、誰?」


「え?」


 いつになく真剣な表情で、そう疑問を投げてきた。思ってもいなかった人名が出てきたことに、俺は思わず抜けた声が出てしまう。


「ねえ、誰なの?」


 そんな俺に構わず、ファーラは鋭い眼光とともに疑問を繰り返し投げてくる。俺はなぜファーラがミミのことを知っているのか、必死に頭を回転させて推理する。そして、ひとつの可能性が頭に浮かぶ。…例の本を見つけていたという事は、きっとミミが贈ってくれたアルバムも見たんじゃ…


「た、ただの大学の幼馴染だよ。それがどうしたの?」


 言った通り、暁ミミは俺の通う大学の幼馴染だ。内気な性格だけど、芯の通った優しい子だ。…けれど、ファーラはどこか気に入らない様子だ。


「幼馴染、ねえ…どんな女なの?」


「どんなって…優しい子だけど、それが?」


 さっきまでとはうってかわり、妙に不機嫌だ。なんだか語尾もさっきより強いような気がする。そしてファーラは、衝撃の言葉を投げてくる。


「…ねえ、その女殺してもいい?」


「はあ!?」


 自分で何を言っているのかわかっているのか、この死神は!?俺はとっさにファーラの頭上めがけてチョップをお見舞いする。


「いきなり何言ってんだ!バカ!」


「いだっ!」


 ファーラは頭を両手で押さえながら、不服そうにむすっとした表情で涙目をし、こちらを見てくる。俺は語尾を強めにして、叱るように言う。


「ダメに決まってるでしょ!バカ!」


 ファーラは一言、むぅと言い、しょんぼりとする。言いたいことはまだまだあるものの、これ以上言っても仕方がない気もするので、あえて話題を変えることにした。

 

「はあ…まあとにかく、ご飯にしよう…」


 俺がそういうと表情が一転、明るい表情を見せるファーラ。本当に気まぐれな死神のようだ。全く先が思いやられる…

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