第8話
「ここ!ここにいってみたいわぁ!」
どこからか持ってきた広告を片手に引っ提げて、俺の体にファーラが突撃してくる。
「な、なになに!?」
毎日の訓練のおかげで、この突撃の対処の仕方もだいぶ把握できてきた。…半ば抱き返すような格好になってしまうのがやるせない点ではあるが。
「ここ!これ!」
彼女が指さす先には、最近新しく出来た、服を扱うお店が示されていた。…死神のくせに、こういうところはまるで若い女の子のようだ。
「…はぁ。いってもいいけどその代わり、誰かを傷つけたり殺したりしない事。守れる?」
「はぁーい♡」
彼女は両手を挙げて同意の意思を示し、俺の首元に手を絡めて抱き着いてくる。
「かわいい服がほしいわぁ♡司を一発で発情させられるような♡」
何か怖いことが聞こえたような気がしたが、あえて触れないようにする。俺はなんとか首の拘束を解き、ファーラに言葉を返す。
「明日にでも行ってみよう。丁度大学も休みだし」
「ありがとうぅ!♡」
ファーラは頬を赤くし、心の底から喜んでいるようだ。…そんな彼女の顔を見ていると妙に不本意だが、こっちまで嬉しくなってくる。…少しだけだけどな。
翌日、俺たちはさっそく目的の店を目指して出発した。ファーラは死神らしいが、見た目は完全に人間であるので、店にたどり着くのは苦労しない…と思っていたのだが…
「意外と、人が多いのねぇ」
「あんまりくっつくなばか!」
大学の連中なんかに見られた日にはなんて噂を流されるか…
「恥ずかしがらなくてもいいじゃない♡もうキスまでした仲じゃないの、私たち♡」
「ああああああああああああああああああああ」
自分の体が熱くなるのを感じる。俺はそれを何とか誤魔化そうと、歩くスピードを必死に上げる。
「ちょ、ちょっとまってよぉ」
…通り過ぎる人たちに妙な視線を送られてくる事に耐えながら、ようやく目的地に到着する。
「さあ、ついたぞ」
「早速、入りましょぉ!」
正直もうへとへとだが、大変なのはこれからだ。俺はファーラの後を追い、店内に足を踏み入れる。
「思ったよりも、たくさんあるのねぇ」
ファーラがいなければ、絶対に来ることなかったであろう店。俺は妙な新鮮味を感じながら、店内を見回す。ファーラの言う通り、品ぞろえのラインナップがかなり豊富だ。どうやらこの店には、ファミリー服のような一般的なものから、コスプレ衣装のようなマニアックなものまで、幅広く置いてあるらしい。俺は自然と当然のように、メイド服を探し始める。
二人で服を見て回る中、ファーラが最初に気に入ったらしい服を持ってくる。
「これ、どう♡」
「!!!」
ファーラが持ってきたのは、いわゆる悪魔コスプレの衣装だ。お腹や背中、ふとももが丸出しの、かなり派手なやつ。目のやり場に困るやつ。
「いつどこで着るんだよこれ…」
俺の率直な感想に、ファーラは頬を赤くしながら答える。
「あら、司が望むのなら、大勢の前で着替えたって私は」
「あああああああああああああああああああああ」
俺はファーラの手から衣装をひったくる。このまま持たせてたら試着しかねない。ファーラは不満気な顔を浮かべ、抗議してくる。
「もう。そんなに恥ずかしがらなくても…」
「違うから!そんなんじゃないから!」
「はいはい、わかってるわよ。司が好きなのは、こっちだものねぇ♡」
ファーラはすでにもう一着持っていたらしく、それを俺の前に掲げた。
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