第9話
「!!!!!」
ファーラの手にはついさっき俺が見つけた、古風なメイド服があった。この店は品ぞろえが豊富なだけあって、やはりメイド服も陳列されていた。いくつか種類があった中で、俺が一番気に入ったものが握られていた。な、なんでわかったのか…
「お、お前それいつのまに!!」
悪魔衣装に続き、ファーラの腕から服をひったくろうとするが、今度は華麗にかわされてしまう。
「やっぱり、これがおきにいりなのねぇ♡」
「いや、ちが!」
心の内を完全に読まれ、動揺を隠せない。そんな俺をもてあそぶ様に、ファーラはその足で試着室に飛び込む。…やられた。この悪魔衣装はフェイクで、そっちが本命だったのか…
少しの時間を置き、ファーラが試着室から姿を現す。
「どう?どうどう?♡」
…正直、かなり似合ってる。めちゃタイプ…だけれど、認めたら負けな気がする。もはや手遅れな気もするが、俺はなんとか虚勢を張る。
「び、びみょうかな。あ、あんまり、にあってない、な」
自分でもびっくりなくらい日本語がカタコトになる。そんな俺の姿が面白いのか、ファーラは俺にだんだんと近づいてくる。
「?」
何をする気かと思った次の瞬間、彼女はためらいなく俺に抱き着き、唇を耳元に近づけ、艶っぽい声で囁く。
「ご、しゅ、じ、ん、さ、ま、あぁ♡」
吐息を混ぜながら、一切耳に触れずに耳を刺激してくる。一瞬でも油断したら、脳みそが溶けてしまいそうな感覚を覚えた。俺は耳だけじゃなく、全身が熱くねっせられていくのを止められない。
「ふふふ、かわいい♡」
真っ赤になっているであろう俺の顔を見て、ファーラは余裕の笑みを浮かべる。…決して認めたくはないけれど、完敗だ…
その後もしばらく服を見て回り、結局何着かの部屋着と外出用の服を買うにとどまった。案の定ファーラはメイド服を欲しがってはいたが、あれ以上あの姿を見せられたら本当に死んでしまいかねないと彼女に訴えたら、泣く泣く折れてくれた。
「あの服が手に入らなかったのは残念だけれど、司の素敵な姿を見せてもらえたからよしとするわぁ♡」
「…」
…当分は、このネタでいじられそうだ。いや当分どころか、下手したら一生かも…
「ふふ♡」
…俺の腕に抱き着きながら、嬉しそうにファーラは歩いている。…散々な思いをさせられはしたものの、まぁこの顔が見られただけでも、来てよかったかな。ルンルンで歩く彼女の横で、どこか心が満たされる感覚を覚えた。
死神(♀)がやってきた! 大舟 @Daisen0926
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