死神(♀)がやってきた!

大舟

第1話

「ただいま」


 返事はない。一人暮らしであるから当然であろう。

 彼の名前は高野司。都内の大学に通う大学生。今日は5限まで講義がある日で、かなり疲労しての帰宅のようだ。玄関ポストに入っていた超大物芸能人の結婚号外紙を床に放り投げ、キッチンに向かう。

 冷蔵庫から無骨に飲み物を取り出し、一気に飲み干す。喉の渇きを潤したのち、彼は一言つぶやく。


「つまらないなぁ…」


 彼が通う大学は、この国トップクラスの難関大学。講義内容も充実していて、彼自身、周りの交友関係にもなんら問題はない。客観的に見れば非常に充実した大学生活であるが、彼自身は飽き飽きしているようだ。

 そのまま冷蔵庫から昨日の残り物を取り出し、リビングに腰を下ろす。いただきますと唱え、食事を始める。白米を頬張りながら、ふと部屋を見渡した時、無造作に床に転がっている成績表が目に入った。去年度の大学の成績表で、内容はオールS。それを見て彼は、深いため息をつく。

 彼はこれまで、失敗という失敗をしたことがない。少し勉強すれば学年トップの成績を叩き出し、異性にもふられたことがない。したことのないスポーツも少し練習すればすぐにコツを掴み、瞬く間に上達する。しかしそれゆえに、なにをしてもやりがいを感じられないのだ。

 そうこうしている間に、彼はごちそうさまを唱え、食事を終える。さて、食器を片して明日の準備をしないとな。そう考えた時だった。


「あら、私の分はないのかしら?♡」


 ことごとく沈黙だった部屋に、突如として艶っぽい声が現れる。彼は驚きながらも振り返り、その姿を見た。

 深紅色の髪と瞳の女性。歳はやや上だろうか。全身を黒の衣装で包んでいる。いかにも不審者な彼女は、固まっている彼などお構いなしに続ける。


「まあいいわ。とりあえず、あなたに言わなければいけないことがあるの♡」





「あなた、1年後に死ぬわ♡」





 いやいやいやいやちょっとまて、全く意味がわからない、て言うか目の前にいるこの人は誰なんだ??どこから入ってきた??もしかして逃げた方がいいのか??いや通報が先か??

 無数の疑問が頭の中を駆け巡る。が、固まっていてもらちがあかない。と、とりあえず聞いてみるか…


「ど、どうやって入ったんだ!?ていうか誰!?」


 情けない声が出てしまった気がするが、もはやこの際関係ない。


「そうねぇ…あなたの世界で言う所の死神ね♡」


 …は??

いやいやいやいや意味わからん意味わからん。と思っていたら、声に出ていたらしい。


「意味わからん?…そうねぇじゃあ♡」


 彼女はそう言って床に転がっていた号外紙を手に取る。すると、彼女の手から赤く黒い火の手が上がり、号外紙に火の手が上がる。

 ど、どうやったんだ…??手品か??

など考えながら見ていると、紙は燃えていないことに気づく。紙は燃えず、書かれている文字が変化している…!?

 火の手が収まり、号外紙があらわになった時、書かれている内容に衝撃を受ける。たしかにさっきまでは芸能人の電撃結婚の記事だったものが、芸能人が突然死した記事に変わっている…!?


「信じてくれるかしら?♡」


 目の前で起きる信じられない出来事に、声が出ない。けれど、なんとか言葉を絞り出す。


「つ、つまり、死神が俺に余命宣告に来たってこと…か?」


「う~ん、余命になるかどうかは、あなた次第ね♡」


 もうこっちは頭がついていけないが、死神は続けて言う。


「私と取引してくれるなら、1年後に死ぬことはなくなるわ♡」


「と…取引??」


「そう。私はあなたの事も知りたいけど、私の事も知りたいの♡」



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