第2話

「私はあなたの事も知りたいけど、私の事も知りたいの♡」


 死神はそう言った。もう話がわからなさすぎて一周回って逆に冷静だ。


「それで、取引ってなんなんだ…?」


 取引って言うからには、1年後に死ぬ話をちゃらにするかわりに、人を殺して魂を集めろとかそういうことなのか…?


「私は全く覚えていないんだけれど、私は死神になる前はこの国の人間だったみたいなの♡」


 はい??なんて言った今??

死神の前世が人間だって??


「私が何者だったのか探してくれるなら、死ぬのは先延ばしにしてあげるわ♡」


 先延ばしかよ…っていうかだめだやっぱりついていけねぇ…いったい何を言ってるんだ…そもそもこいつはどこから来て、なんで俺を知ってるんだ…??さっぱりわからん…


「さっぱりって顔ねぇ。いいわ、順に説明してあげる♡」


 俺の心中を察したらしい死神は、説明を始める。


「私は冥界に住む死神。そこから色々な人間を観察して、私の人間時代を突き止められそうな人間をずっと探していたの♡」


 ずいぶん勝手な死神だ。


「いろんな人間を見てきたけれど、どれもなんだかピンとこなくってぇ♡」


「…それで?」


「そんな時にあなたを見つけたの!♡」


 死神はこちらを指差し可愛いらしく微笑む。


「あなたを初めて見た時の感覚は今でも忘れないわぁ!♡」


 う~んなんだか嬉しいような、嬉しくないような…


「そ、それだけで俺なのか?」


「もちろんあなたは優秀だからと言うのもあるのだけれど、どこかあなたには惹かれるのよねぇ…♡」


ずいぶん自由な死神だ。


「…つまり、お前の人間時代を探すか、1年後に死ぬか、どっちか選べってことか…」


「そうね♡」


 そんなもん、選択の余地がないじゃないか…死神はキラキラと目を輝かせてこっちを見ている。ほんとに死神なのか…?そう言われなければただの美人なんだが…


「…分かった。取引に乗る」


「言ったわね!取引成立ね!嬉しいわぁ♡」


 そう言うと死神は、俺に抱きついてきた。なんだなんだ!なんのつもりだ!


「これからよろしくね!司ぁ♡」


 ちょ、ちょい苦しいって…!

あ、あれちょっとまてよ…


「で、でももし俺が取引に応じなかったらどうするつもりだったんだ?」


「その時は、1年後にあなたの魂が私のものになるじゃない♡」


 やれやれ、どうやらこいつは本当に死神みたいだ。全くこれから面倒になりそうだ…

 でも正直俺は、喜んでいた。退屈だったこれまでの人生に、思いがけず転機が訪れたと言っていい。こいつの正体はもちろん、死神だの冥界だのわからない事だらけだが、俺の人生、何かが変わる気がする…



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