第3話

「…で、お前はいつになったら帰ってくれるんだ?」


 取引は成立したのだから、さっさと帰ってくれないと困る。ただでさえ食事を終えたばかりで、片付けもある上に明日の準備もまだだ。何よりずっと抱きつかれていて息苦しい。


「あら、取引したんだから私は常にあなたと一緒よ♡」


「は」


 この死神今なんて言った…??

常に一緒とか言ったか??いやいやいや


「だから、もう私はあなたから離れられないの。あと私には、ファーラって名前があるの。ちゃんと名前で呼んでほしいわぁ♡」


 俺は思わず頭を抱える。おいおい聞いてないぞそんな話…本当にこの先このファーラといっしょに過ごさないといけないのか…??

 ファーラは俺の表情などお構いなしに、言葉を続ける。


「ねえ司ぁ~、もう一度聞くけど私のごはんはないのかしらぁ?♡」


 あ~最初に現れた時の第一声もそれだったな。


「死神なのに、人間のご飯食べられるのか?」


「別に食べなくても、さらに言えば寝なくても平気だけれど、あなたの作るものなら食べたいし、あなたが眠る時はいっしょに眠りたいわぁ♡」


「分かった分かった!だからとりあえず離れてくれ!」


 そう言うとようやくファーラの抱擁から解放された。しかし死神に抱き付かれるなんてシャレにならない気もするが…

 そんなことを考えつつ、俺はもう少し残っていた残り物を冷蔵庫から取り出し、白米と合わせて死神の前に置く。


「こんなもんしかないけど…」


「最高よ!!いただくわ!♡」


 そう言うとファーラは箸を取り、上品に白米を頬張る。その姿だけ見ると、まるでどこかの美人なお嬢様のようだ。

 …しかし美味しそうに食べてくれるなあ。なんだか、嬉しくなっている自分に気づく。こいつと一緒にやっていくのも、悪くないかも…と考えたところで、必死に自分を自制する。な、何を考えてんだ…相手は死神だぞ。落ち着け落ち着け高野司…


「ほんとに美味しいわぁ!♡」


「それはよかった」


 心は穏やかではなかったが、我ながら冷静に返事ができた…と思う。

 その後もファーラは美味しい、幸せと言葉をこぼしながら、食器を空にする。


「ごちそうさまでした♡」


「どうも」


 ごちそうさまが、やけに色っぽいなあ。こいつわざとやってるのか?…全くからかってくれる…

 俺は食器を片し、明日の準備を整える。講義用のノート、実験ノート、メモ帳と順調に準備をしながらふとファーラの方に目をやると、先ほどまでのニコニコとした表情とは一転して、真剣な表情である本の表紙を見つめていた。歴史の参考書だ。


「どうかした?」


 思わず俺はそう声を掛ける。するとファーラは、


「い、いえ」


 と言って視線を本からそらした。俺は不思議に思いながらもそのまま準備を終わらせる。いろいろあって疲れた…今日は早く寝よう…

 そう思ったところでふと考える。あれ、そういえばあいつはどこで寝かせればいいんだ…?まあ寝なくても大丈夫って言ってたし大丈夫か。あいつ死神だし。

 そう考えながらベッドに行くと、何やら布団が盛り上がっている…嫌な予感…


「先にはいって暖めておいてあげたわよぉ♡」


 無視して俺はベッド横の床で寝ようとすると、とたん腕を掴まれそのまま布団の中に引きずり込まれる。あ、あついしくるしい…体はやわらかいけど…って違う!!


「これからは毎日一緒に寝るのよぉ♡」


「か、勘弁してくれえええ!!!!」



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