戦後、開発者の元に引き取られた元軍用アンドロイドの、最後の一週間のお話。
戦のない日常を描いたSFであり、また王道のビルドゥングスロマンです。
高校生の少女、梓の成長を描いた物語。決して喜ばしいことばかりではない、むしろつらく苦しい現実が次々姿を現す日々の中、まるでとどめとばかりに確約された「ミリアム」との別れに向かって進んでゆく、その物語の力強さに打ちのめされました。
昔と変わらず美しいままのミリアム。壮絶な現実の只中にある梓にとって、それは安全な揺り籠のようなもので、であるならば彼女との別れはつまり、事実上の巣立ちであるように思えました。
あまりにもつらく、苦しく、険しい現実。それらはなにひとつ(事象としては)解決されず、そればかりか大きな別れによって物語が締め括られているのに、しかし強く胸を打つのは前向きな感情。自分の中、何かに区切りをつける、という形での決着。
読後の物寂しく悲しい余韻の中、でもこのお話は決して悲劇ではないと断言させてくれる、その姿勢のようなものが本当に大好きなお話でした。面白かったー!
わずか一万文字ながら、胸に迫るお話だった。見ようによってはあの幕切れは悲劇とも映るが、これは決まっていた結末で、梓ちゃんはそれを踏まえてミリアムと過ごしていた。
ミリアムはアンドロイドで、俗世の生活というものをしていないから、梓の学校や家庭のような醜さとは無縁だ。しかし戦場で働いたミリアムは、それらとは別種の醜さもまた見てきたのだろう。けれど、それはどっちがどうとか比べる話でもない。
激しい戦争を生き延びた旧時代のアンドロイドが、少女の心に美しく輝かしい思い出になって去るというのは、物語としてこれ以上ないハッピーエンドに思えて、私はどうしても戦場の彼女について想像をかきたてられた。
ミリアムは自分がどうすれば、人体を破壊できるか知っているはずだ。その上で、あの「規則で」のくだり。
「感情のあるアンドロイド」の設定で「感情の目盛り」という平易で分かりやすく、それでいて様々にその内心を考えさせられてしまうこの設定も素晴らしい。
梓ちゃんはきっと、大丈夫だよね。これから、この先にある美しいものを見ていくよね。涙があふれる思いで、最後のミリアムにそう訊ねたラストシーンだった。
ミリアムが作られてから止まるまでに起きた、長い長い物語の内の最後の数日間のお話。
感情を持っているアンドロイドなのに作中で見せる感情は穏やかな物ばかりで、一番強く見せた感情の怒りの時でさえ口調を荒げたり大声を出したりはしません。
きっと、彼女は人の一生と同じ時間を生きている内に人間と同じ様に自らの感情を制御する術と、激しい感情は『疲れる』という事を学んだのでしょう。
数値で感情が見れるアンドロイドですが、感情を制御出来るのならばその数値はただの飾りでしかありません。
彼女が周囲の人間をどう思っていたか。梓に何を残したかったのか。弓絵をどんな感情で見ていたのか。そして、彼女自身の死についてどうしたかったのか。
それは全て、感情を持つアンドロイドのミリアム本人にしか分からない事です。
願わくば、彼女の魂が天に召されます様に。とても素敵なお話でした。