幸せな記憶と変わらずそこにあるものと、そこからの巣立ち

 戦後、開発者の元に引き取られた元軍用アンドロイドの、最後の一週間のお話。
 戦のない日常を描いたSFであり、また王道のビルドゥングスロマンです。
 高校生の少女、梓の成長を描いた物語。決して喜ばしいことばかりではない、むしろつらく苦しい現実が次々姿を現す日々の中、まるでとどめとばかりに確約された「ミリアム」との別れに向かって進んでゆく、その物語の力強さに打ちのめされました。
 昔と変わらず美しいままのミリアム。壮絶な現実の只中にある梓にとって、それは安全な揺り籠のようなもので、であるならば彼女との別れはつまり、事実上の巣立ちであるように思えました。
 あまりにもつらく、苦しく、険しい現実。それらはなにひとつ(事象としては)解決されず、そればかりか大きな別れによって物語が締め括られているのに、しかし強く胸を打つのは前向きな感情。自分の中、何かに区切りをつける、という形での決着。
 読後の物寂しく悲しい余韻の中、でもこのお話は決して悲劇ではないと断言させてくれる、その姿勢のようなものが本当に大好きなお話でした。面白かったー!

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