白点病 四

 それから少しして、私はペットショップのバイトを辞めた。その後は宅配便のバイトを始め、就職まで続けた。今は社会人二年目で、百貨店の販売員をしている。


 辞めてからは、一度も元バイト先のショップに足を運んでいない。ショップの熱帯魚コーナーは私が辞めてから数か月後に無くなって、その跡地は爬虫類コーナーと園芸植物コーナーが分け合ったという。


*****


 以上が、Cさんのお話である。


「いつか私の家にも、アレが現れるんじゃないかって。そう思うと怖くって……それに私、普通のベタ見ただけでもアレを思い出しちゃってダメなんです。熱帯魚ショップにはほぼ置いてるから、ショップ行くのもダメになっちゃったんですよ。だから、うちで飼ってた魚たちは全部知り合いに譲っちゃいました」


 ペットショップのバイトを辞めた後、Cさんはあちこちに連絡をとって、飼っている魚たちの引き取りをお願いしたらしい。幸いCさんの飼育規模がさほど大きくなかったこともあって、全ての生き物に引き取り手が見つかったのだという。


「ショップも無理ですけど、水族館に行くのもダメで……今の彼氏と江ノ島で遊んだときの話なんですけど。あそこ、大きい水族館あるじゃないですか」

「あー……そういえば」

「彼氏が水族館好きで、そこに行ったんですよ」


 Cさんの話は、なおも続いた。Cさんは彼氏と一緒に、江ノ島の水族館に行ったのだという。


「水族館で企画展? みたいなのがやってて、そこにベタがいたんですよ。赤いやつが。そのとき私、今話したこと思い出しちゃって……その場で倒れちゃいました」


 どうやらこの件は、相当なトラウマになっているらしい。


「まぁ、その彼氏とは今も続いてるんですけど、彼氏は水族館が大好きみたいで……一緒に行けないのはちょっと寂しいしつらいです」


 そう語るCさんのハンドバッグには、古びたメンダコのラバーストラップが付いていた。

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魚にまつわる怖い話 武州人也 @hagachi-hm

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