強くて真っ直ぐで、迷いのない彼女が彼に遺したそれは、優しい呪い。

 死の間際に人が残した願いが生み出す匣庭(はこにわ)。
 そこで彼が出会ったのは自由奔放で美しい夜色の女性、一蓮安(にのまえ りあん)。
 全ての匣庭を滅ぼすのが望みだと言った彼女が彼を見出したのは、彼こそが人の願いを叶える宿命を負った龍だったから——。

 かつて大火で焼けた深灰という街で、妖魔と戦い、悲しい子供の願いを叶えながら、匣庭を廃し続ける蓮安とシロは、それぞれが負う呪いのような運命と向き合い、やがて避けようのないある選択を強いられていきます。

 脇を固める怪しい黒色眼鏡の社に藤色の髪を持つ十無、ツンデレ少女かと思いきや、運命に翻弄されるイチル、そんな彼女にやたらと絡んでくる妖魔の姫子、同じ龍でありながら、全く違う性質を持つ玄龍と彼の契約者である老婆。

 それぞれの願いがさまざまに絡み合い、人の願い、生と死、救いと裏切り、さまざまな人の業が描かれながらも、どんな時にも軽やかに、そして真っ直ぐさで切り開いていく蓮安先生がもう大変素敵なのです。

 祝詞と共に繰り出される不可思議の術が鮮やかに脳裏に浮かぶバトルシーンも圧巻、ラストバトルではもうスタンディングオベーションでした。最高!

 と興奮した後に迎えた、対照的に静かな最終話。
 灯されていた蝋燭がふっと消えるような、切なくも優しく温かい物語の終わりにもう胸がいっぱいになってしまいました。

 少しずつ変わっていくシロくんと、ずっと変わらない蓮安先生。
 きっと初めから結末は決まっていたであろう二人の物語。それでも、彼らが何を考え、どうしてその決意に至ったのか、人間ドラマとしても最高だし、エンタメとしても大変楽しめる一作なので、ぜひ時間を見つけて一気読みがおすすめです。

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