その願いは誰のため

 虚飾と華燭の魔都といわれる深灰の一角で、料理と酒と演劇を楽しめる『勾欄』を営む訳ありの青年シロと、彼のまえに突然あらわれた美しき夜色の女、蓮安(リアン)。
『ここで匣庭が発生している』
 物語は蓮安が告げたそのひとことからはじまります。

 人の強い願いが生む『匣庭』という現象。そこは生者と死者が混在する世界。

 命の危機に『死にたくない』と思うのも、愛する者に『生きてほしい』と願うのも、きっと当然のことでしょう。だけどその祈りは、はたして誰のためのものなのか。
 お互いのことを思いながら、そして、お互いのことを思うからこそすれちがってしまう願いがある。

 物語がすすむにつれ、どうしようもないやるせなさに何度となく胸がつぶされそうになりますが、ラストまでたどりついたとき、そしてページをとじたあとの余韻がまあたまらんのです。
 なにがどうたまらんのかはもう読んでとしかいえないのですが。完結しましたので一気読みもまとめ読みもできます。とにもかくにも読んでください。ぜひ、最後まで。

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