ニュクス

 深夜、目が覚めた。

 用を足そうと、二階の自室から一階へ降りた。



 祖父の部屋の前を通ろうとしたところ、廊下に女が立っていた。

 幽霊だった。

 部屋に引き返した。



 動揺していたのだろう。

 自分の部屋ではなく、父の部屋のドアを開けてしまった。

 すると、中では、見知らぬ若い女が父にまたがっていた。

 父と女は侵入者に構わず、行為を続けている。

 慌ててドアを閉じた。



 自室に戻ると、父が膝を抱えて坐っていた。

 彼は何も言わず、恨めしそうに、こちらを見つめていた。

 人生に疲れ切った様子で、みすぼらしい格好をしていた。



 先ほど見た、女を抱いていた父と、目の前の父。

 どちらが本当の父なのか?

 そのようなことを考えていると、父の部屋から女の喘ぎ声が漏れてきた。



 どちらも本当の父ではないのではないか?

 わかりやすく、受け入れやすい推論が頭に浮かんだ。

 そう安堵した次の瞬間だった。

 いや、そうではなく、どちらも本当の私の父ではないのかと思い浮かんだ時、耐えがたい身震いに襲われた。


 ギシッ。

 ギシッ。

 こんな時間に階段を上がってくるのは誰だろう?

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短編集「ジンベイザメ」 青切 @aogiri

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