伸びない小説を書いている作家に向けて、伸びている小説を書いている作家に向けて。

藍坂イツキ

執筆という名の自慰行為


「僕の小説って……面白くないのかな?」


 僕は、誰もいない自室でため息を漏らした。


 今日も今日とてパソコンを見つめ、自分の文章を推敲するがことごとく投げ当てられる自分への否定。


 ブクマが10にも満たない小説なんて、価値がない。

 

 あの頃の僕はそう口にしていた。

 

 それを言葉にする理由は多々あった。多々——いやそれ以上にあるかもしれない。


 いつも読むライトノベルの数々、参考に読みたいから、趣味で読んでいるから。理由は二つ存在する。


 でも、読めば読むほど執筆をする気にはなれなかった。


 読めば読むほど炙り出される僕の拙さ。


 読めば読むほど露呈していく僕の技術の低さ。


 プロは凄いと思いながら、僕の精神は削られていった。


「小説書いてるの⁉ じゃあ読み上げるわ~~」


「いいね~~、ここで読めよ~~!」


「ははっ、普通におもろいんだけど‼‼」


 たまに会う中学の友達によくバカにされた記憶がある。ブクマが10にも満たない底辺作家の時代た。当たり前かもしれない。馬鹿にされて当たり前だと思うし、この頃の小説なんて糞も面白くないと個人的に感じている。


 ごく、当たり前。

 至極当然、無理もない。


「へぇ、君って小説書いてるんだ。すごいね」


 しかし、そんな僕も真っ当に恋愛が出来るくらいには人間として出来上がってはいた。


 最初は気恥ずかしくて言えなかったことも徐々に言えるようになってきて、それなりに自信もついてきた。


 すごい――なんて言われて、嬉しさのあまり舞い上がった日もある。初めてのコメントが来て、嬉しくて。ブクマが10を超えて気分上々になっていた。


「私も読みたいな……君の書いた小説」


 そう言われて僕は彼女にまんまと渡した。


「いいよ」


「うん」


 夕焼けに照らされて笑う君の横顔を見つめて、頑張ろうと思った矢先。


 僕は初めてできた恋人に言われたんだ。

 付き合って3年後の別れ際。


「——正直、小説書いてるのってキモい。プロじゃないのに、書いてるんでしょ?」



 今までのは嘘だったかのように。

 壮大なドッキリか?


 そう思って精神を安定させていた。


「……」


 ぐうの音も出ない。

 正論の塊だった。


 確かに、僕はキモイ。


 ブクマもたった30しかない。誰も見てないと言ってもいいくらいの小説を初めて読んでくれた彼女が——別れ際にそう言って、僕はもう事切れていた。


「僕の小説は面白くない」


 読者? フォロワー? 星の評価? レビュー?


 そんなもの塵にも等しい。

 その評価を知った時、僕は何もできなくなっていた。


 だって、変わらないじゃないか。


「僕の小説は面白くない」


 コンテストのページをスクロールする右手。

 あれよあれよと願えば願うほど、僕の作品の名前は見えてこない。


 ツイッターでは「中間選考突破しました!」「短編と長編合わせて三作品が突破していました! ありがとうございます!」「突破できた~~‼‼」


 そんなコメントの数々がタイムラインを覆っている。


 ようやく下までたどり着いたとき、また落ちたのかと悟った。


 しかし、これで思ったんだ。


 真相にたどり着いたんだ。


「僕の小説は面白くないんだって」


 そう言われていた。

 だって、読者にも見放されて、公式にも見放されたんだぞ?


 ランキングに載ることもなく、トップページに載ったこともない、星の数も多かった作品が星の少ない作品に負ける。


 意味が分からなかったが——同時に思う。


 そんな作品にも負けるほどに、僕の作品は面白くないんだ。


 痛い。


 今動いている手、この手には何の意味がある?


 だから、思ったんだ。


「僕の小説は面白くはない」


 もういいさ、もう書きたくない。

 もう、やめたいんだよ。


 自己肯定という名のオナニーを僕は今すぐやめたいのに、誰も見てくれないことを分かっているのに。


 ——なんで、僕は書き続けているのだろうか?


「その答えが、知りたいです」


 ——なんで、あなたはこの小説を読んでくれているんですか?


「その理由が、知りたいです」


 僕に手を、差し伸べてよ。




 


 

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伸びない小説を書いている作家に向けて、伸びている小説を書いている作家に向けて。 藍坂イツキ @fanao44131406

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