第2話 ガンパレ♡ガンパレ
ここは魔王城の玉座の間の屋根裏。
畳に襖、中央にはコタツと和風な作りの部屋。赤みがかった茶髪でボブカットの少女がコタツに潜り込み天板に顎を載せている。
「ふいー、あの獅子は毎回猪突猛進で困るのう」
「それだけ魔王様を案じているのでしょう。知ってますか? あの獅子、毎回私の事物凄く睨んでるんですよ? お前なんかに側近が務まるかって刺す様な視線です」
近くのストーブの上に置いてある湯の沸いた鉄瓶を急須に注ぎお茶の用意をする鴉の獣人。
コポコポと湯呑みにお茶を注ぎ少女の前にそっと置く。
「ああ、わーかってる。いつもすまないねえおっかさん」
コタツから手を出し湯飲みで冷えた手を温める少女。
「ちょっと前に魔王様がやっていたゲーム、なんでしたっけ、あのすり足だけで戦場を駆け抜けて敵を殲滅してたシュミレーションゲーム。あれの視線の可視化がこの世界にもあったら私の顔が穴だらけになるってくらい睨んでましたよ」
「ガンパレはいいゾー。それはそうとクローニンみかん剥いてー」
クローニンと呼ばれた鴉の獣人はため息をつきつつも自分の
「薄皮もですか?」
「もっ」と言いつつあーんと目を瞑ってまるで雛鳥の様に口を開ける魔王様。
この姿を見たらあの獅子の獣人はどういう反応をするのだろうかとクローニンは思案する。
幸せそうにみかんをモキュモキュしているこの魔王様の姿を知ってるのは、クローニンと門番のガーゴイルという彫像だけである。
ガーゴイルが魔王様の正体を知ってしまった経緯は、色々な勘違いから生まれたモノなのだがここでは割愛する。長くなるので。
つまる話、クローニンは魔王様の世話をするのが好きなのだ。魔王様の正体は私だけが知っている。私だけの独占。ガーゴイルは後で始末しようとか考えてしまうくらい。
その頃魔王城の外では。
「ヘッショワイッ!」
崖から城を繋ぐ階段の左右を並ぶ彫像群の中の一つがクシャミをした。
「それはそうと、今日の勇者はどうしているかの?」
言われてクローニンはリモコンをテレビに向ける。テレビには『きょうのゆうしゃ』というテロップが流れ、デフォルメされたアニメ調の勇者の顔と共にタイトルが映し出される。クローニンが
「すみません、使い魔が鴉ゆえ何かついばんでる様でたまに映像が乱れます」
「う、うむ、まあ良し。しかし土手か……」
「この流れは『また』ですかねぇ」
「嫌な予感しかしない」
使い魔の鴉が本来の使命を思い出したのか、映像がゆっくりと視線を変える。
賑やかな土手の上を他所に、一人の少年が川の側でシャボン玉を吹いている。
本当は日が照る暖かな土手の近くで吹きたいのだろうが、シャボン玉が行き交う人々に当たるのを避けて河岸の建物の日陰。川側で吹いているのだ。ほんのちょこっとだけ太陽が建物から覗いているこの場所で。
「またシャボン玉吹いてる様ですね」
呆れた顔で呟くクローニン。
「これはどっちのシャボン玉だ? 辛いことがあった時のシャボン玉か? それとも楽しい時のシャボン玉かー?
おいカメラもっと勇者に寄れ!」
ピョンコピョンコと前に進む映像。勇者の顔を覗き込める位置まで来た次の瞬間、突如ギニャーという鳴き声と共に鴉のギャーギャーと言う叫び声が大音量で屋根裏部屋に響き渡る。
そして砂嵐のブラウン管テレビ。
突然の大音量でひっくり返った魔王様。
「ぬがー、いい所で猫が邪魔をするかっ! クローニン!」
「どうぞお召し物を」
すらっとした執事姿の黒髪で白髭を蓄えた人間が赤いコートを持ってそこにいた。
コートを着つつ手をかざし「ゲート!」と叫ぶと二人の目の前に黒と青の渦巻いた壁が出現する。魔王様が使えるシステム権限の一つ『ワープゲート』。異なる二つの空間を繋ぐ入り口を作るものである。
「今行くぞ、待っておれ勇者!」
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