第5話 ゼロから盛大に何も始まらない異世界生活
オタク獅子の騒動より少しだけ前の時間。
いつもの屋根裏部屋、いつもと違う騒がしさに魔王様が目覚めると。
部屋に見知らぬ人が居た。
片や全体的に薄紫に統一されたうさぎ柄のパジャマの魔王様。
対して、
トゲのついた肩パッドのモヒカンがバイクに乗って魔王様を見ている。
ドッドッドッドとエンジンの音が響く。
「……」
「……」
お互い何が起きたのかわからない状態でしばらく膠着状態。
先に動いてのはモヒカンだった。
エンジンを停止させバイクから降りる。
「すみませんここどこですか?」
見た目とは裏腹に意外にも丁寧に聞くモヒカン。
対して魔王様の行動は、モヒカンに手のひらを向けると、
「
スポッと間の抜けた音と共に床に空いた穴に吸い込まれたモヒカン。
バイクを残して閉じる穴。
バイク……。
今、元の世界に送ったモヒカンの側に送ろうか、はて、どこの世界だ? ログ見直して座標の特定を……、
いろいろ考えて、寝起きで頭がうまく働かない魔王様は、
「寝よ」
考えるのをやめた。
「また異世界人が出た。ヒャッハーだった」
「ヒャッハー?」
指を鳴らして着替えとベットの片付けを終える魔王様。
屋根裏部屋に急遽現れたバイク。その事を尋ねたクローニンに寝ぼけまなこでそう答えた。
「スキルは何と?」
「寝ぼけてて良くわからなかったけど『種もみ』がどうとか何とか?」
「種もみ?」
鴉の頭を傾げ、つぶらな瞳をパチクリ。
「どこの異世界人だったんでしょう?」
「さぁ?」
調べるのがめんどくさいと肩をすかす魔王様。
その後、獅子のやりとりを得て人間の街を訪れる二人。
「へぇ、ここが人間の街でござるかー。随分と賑わっておるでござるね」
失礼、訂正する。三人は人間の国の城下町を歩いていた。
「なんでお前までついてきている」
ジト目のクローニン。
貴族のお嬢様に、それに従う執事。
茶髪もさもさ伸び放題の七三分け眼鏡シャツ裾インズボンの今朝の格好にジージャンをプラスした大男……形容詞が見つからない。
「警護でござるよ」
自宅かな?
脳裏で付け加える魔王様。
「しかし、なんで人間達は遠巻きにこっちを見てるでござる?」
ひそひそと何かの呟きが聞こえてくる。
「耳を澄ませばわかるんじゃないか?」
「ふむ?」
クローニンの声に応えるように元耳の側に手をあてがう元獅子の名無し。
人の耳の位置でなく頭の上。大の大男がウサギの真似をしてる。
家の窓やドアの隙間からざわめく音。
その声を聞いて元獅子は、
「どうやら異世界人が近くにいるようでござる」
とひそひそ声で二人に伝えた。
「そりゃまあ」
「いますよねぇ。それはもう特大のが」
頭上にはてなマークの元獅子。
「しかしいつまでも獅子という呼び方じゃアレじゃのう。ここらで名前つけておくか。リオンなんてどうじゃ」
その魔王様の呟きに、
「イーンッ!」
とカマキリっぽいポーズで叫ぶ大男。
周囲がさらにざわめく。
二人は早歩きになった。
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