第7話 今回データが五回飛んだ。私もシャボン玉してくる。

 ごくごく。

 夕暮れ時の小川。

 夕陽を光を浴びてキラキラと光るシャボン玉。

 どこかノスタルジックさえ漂わせる情景とは裏腹に、死んだ魚の目でシャボン玉を吹く人々。

 言わずと知れた三名である。

 一人はシステム権限で能力者の痕跡を辿り、一人は地道に聞き込み、一人は持ち前の鼻で。

 結局、異世界人の手がかりは何の成果も得られませんでしたー!

 かくして無駄に時間を過ごし精神的に疲れた三名は、シャボン玉を吹いて気を紛らわしていた。

「既に殺されてスキル自身も奪われた系じゃね?」

 小玉のシャボン玉を大量に飛ばしながら擦れた表情の魔王様。

「ガセネタの可能性もありますよね?」

 二つのストローでシャボン玉インシャボン玉を作るクローニン。もちろん擦れた表情。

「衣服と似た匂いを探したけど、途中で途切れてわからないでござる」

 大きなシャボン玉を育成中のリオン。以下同文。

「多分、水で匂いが消えたんじゃないかと思うでござる」

 全員一斉にため息と共にシャボン玉を吹く。

 そこへあらわれる勇者。

「こんにちはいちごさん、今日もいいシャボン玉日和ですね」

 ども、と他の二人にも挨拶。

「こんにちは、えっと……」

 勇者から名前を聞いてなかった事に気が付く。

「あ、まだ自己紹介してませんでしたね。すみません。僕の名前はヒカル・ムロトって言います。ヒカルって呼んでください」

「よろしくヒカル。こっちは執事のクロウと護衛のリオンよ」

 よろしくお願いしますと会釈するクローニンと、ニッと笑顔でサムズアップのリオン。


 ごくごくごく。

 沈む夕陽を見ながら、重いため息の四人。

 三種三様のシャボン玉が宙を舞う。

「僕はいつも通りのクエスト失敗ですが、皆さんはどうしたのですか? 揃ってお疲れの様ですが?」

「異世界人を探してるのですが見つからないでござる」

『なっ!』

 言葉の重なる二人。

「異世界人ですか、今日街中で出たと噂がありましたが、三メートルほどの二本の角が生えたオーガだとか」

 たらたらたらと内心で汗をかく二人。キョトンとした一人。

 噂に尾鰭が付いてなかったら衛兵に通報されていたところである。

「お嬢様が異世界人を見てみたいとワガママを、失礼、申し上げたので噂を頼りに街中を探したのですが、結局見つからず。きっと根も葉もない噂だったのでしょう」

「こ、こらクロウ!」

 ナイスフォロー、どういたしましてと目で意思疎通する二人。

「僕も一度も異世界人に会ってないんですよ。クロウさんは詳しそうですが、異世界人ってどんな特徴とかあるんです?」

 ヒカルに言われ口髭を摩りながら、

「そうですねぇ、妄執に取り憑かれた人ですね。例えば美少女が浸かった湯を飲み干したいという執念に駆られているごくごく民がいますね」

「なにそれ怖い」と魔王様。

『魔王様の深層データーから拾い上げたんですよ?』

『いや改めて他人の口から聞くと異世界人怖いなって』

 魔王様とクローニンは脳内会話でやりとりする。

「あんな感じの人ですかね」

 ヒカルが指を指す先。


 ごくごくごくごく。

 橋の下。

 冒頭からのごくごくと背景音の発生元。

 一心不乱で川の水を飲んでいるモヒカン。

『いたぁああああ!』

 三人の声がハモる。

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