第8話 リセマラって最初に考えた人天才じゃね?

「いちごさんは僕の後ろに隠れて!」

 ヒカルが魔王様の前に立ち庇う。

 左はレオン、右にクローニン。モヒカンからの攻撃を止めるのとレオンの暴走を止める為。

 レオンは魔王様の言いつけ通り、剣は鞘に納めたまま前に構えている。

 魔王様はヒカルの右腕に縋りついた。

 光の加護があるとはいえ、相手は異世界人。何が起きるかわからない。この周囲でスキル汚染に罹りそうな人物ヒカルを守るために敢えてお荷物役になっている。

 ごくごくごくごく。

 此方の動揺をよそに小川の水を飲み続けるモヒカン。

 そして満足したのか、水を飲み終えると異世界人は四人の目の前で足元に吸い込まれる様に姿を消した。


 その後、勇者ヒカルと魔王様一行はそれぞれ帰途へ着いた。

 そしていつもの屋根裏部屋。

 半纏に身を包む魔王様とクローニン。

 話題は先ほどの件。

 先程の異世界人消失は、魔王様が右手だけ通れる『ワープゲート』を出し異世界人の背後、ヒカルの死角になる場所から右手を翳して異世界人を『送還』した事によるものである。対象の近くで手を翳さないと発動しない。

(スキルは『渇望』。渇望を満たしている間如何なる障害をも無効化。水を飲んでいる間だけ無敵。意味がわからない)

『送還』する前にステータスを覗き見たのだが、思ったより得られる情報が少なかったのかコタツの天板に突っ伏す魔王様。

「今朝の事といい、自分から望んで転移した様子では無いと思うんだが、スキルもなんかチグハグな適当感が半端ない。ひょっとしてスキル持ちが転移したのでなく、転移してから付与されたのか?」

 だとしたら誰に?

 何の目的で?

「実験ではないでしょうか?

 それとも、欲しい能力を持つ異世界人がでるまで繰り返してるとか?」

 コポコポとお茶を注ぎながらクローニンは答える。

「ガチャかな?」湯呑みを受け取る魔王様。

 迷惑極まりないガチャである。

「誰かが付与してる線は無いと思うなあ。此処にも出現したわけだし、何か共通点でも有ればわかりやすいんだが」

 今日確認出来た場所といえば、魔王様屋根裏部屋、そして人間の国の小川付近。

 魔王城入口付近のリオンが倒した異世界人のスキル汚染の痕跡は無し。スキル無しか、誰かに汚染された後か。

「しかし何でヒャッハーなんだ?

 外の世界は世紀末なのか? 世紀末救世主伝説でも始まってるのか?」

 今までの異世界人はチートスキル持ちの一派ピープルが主だった。『鑑定眼』持ちの異世界人が市場を荒らしたり、『盗賊』持ちがダンジョンを荒らしたり、『怪力』持ちが森中の木々を引っこ抜いてたり。

「何か急に方向転換した感じですね。芸風が変わったというのか」

 ずずずと茶を啜りながらクローニン。

「とにかく情報不足ですね。相手の出方を見るしか」

「情報戦で受け身はあまりいい気がしないのう」

「話は変わりますが、今日はPS誤の抽選日ですね。当選はどうでした?」

「おっとそうだったメールメールっと」

 半纏の袖からスマホを取り出し着信を確認する魔王様。そしてガッツポーズ。

「明日アキバへ行ってくる」

「おめでとうございます魔王様」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る