第9話 魔王様と秋葉原

 秋葉原。

 戦後電気街として発展してきたこの街は、パソコンショップが乱立してからおかしな方向へ進み始めた気がする。

 パソコンソフトからエロゲが出始め、エロゲといえば秋葉原とでもいう様に秋葉原に行けば大抵のエロゲが揃っていた。

 その後コンシューマーゲーム機の発展と共に表現の自由と不自由を繰り返し、ゲームセンター、アニメのショップ、メイド喫茶などが乱立するなど秋葉原は様変わりを見せていた。

 昭和、平成と色々なものを吸収し発展してきた街、今ではオタク街となっているこの一角、とあるビルの屋上にあるプレハブ小屋。

 赤字にBuster字のTシャツ、赤いスタジャン。紺デニムのミニスカに黒タイツ、黒のブーツ。とあるゲームのキャラに寄せてはいるが多少のアレンジ。流石にあの帽子は無し。

 そんな姿の魔王様が背伸びをしながらプレハブ小屋から出てきた。

 時刻は午前十時半。

 三月とはいえまだまだ日陰は寒い。

 プレハブ小屋はビルの看板の裏にあり常に日陰にさらされている。

 冬は日陰で寒く、夏は夏で炎天下の屋上。そんな立地である。

 最悪な環境ではあるが、あくまでインフラの入り口の為の建物。不法に拝借している電気と無線LANの引き込み口の為の建物で中はただの倉庫である。気になるのは無線LANのルータが悪環境下で壊れないかであるが今のところ順調に作動している。

 隣のビルからかけそばの香りが漂ってくる。

 朝を抜いた空腹の胃に軽いダメージを受けた魔王様は、帰りにかけそば食べに行こうと決心した。


 PS誤はもうしばらく評判が揃ってから買うつもりの予定が、現役のPS肆のコントローラーが激務に耐えられなくなり永い眠りに。

 修理もコントローラの購入も何気に高価である事から、もういっその事ハードごと一新しようという暴挙に出たは良いが人気の品故欠品続き。

 余りにも酷くて転売屋の品に手を伸ばそうとも考えたがそこは魔王としてのプライドが許さなかったのか、今日に至るまであっちこっちの店の抽選を渡り歩いてきた。

 お陰で何とかゲットはしたが登録に次ぐ登録で今や広告メールがめんどくさい事になっている。

 荷物持ちにクローニン連れてくればよかったと思うくらいPS誤は重かった。

『ゲート』が使えれば良かったが、異世界ではどういうわけかシステムが開かない。

 此処に来るには所定の場所、ビル屋上プレハブ小屋に設置してあるポータルからしか行き来出来ないのだ。

 重さ五キロ程ある紙袋に入ったそれを抱え非常階段を見上げる魔王様。八階建てビルはいい運動になりそうである。

 ため息をつくと階段を登り始め、そこで違和感に気がつく。


 静寂。


 まだ昼間の、それも大通りから一区画も離れていない場所で、車や街の騒音が一切消えた。

 コンクリートを挟んでビルの内側からすら人の気配がしない。

 一キロ四方、魔王様以外生き物の気配が全く無い。

『……』

 遠くから三つの視線を感じる。

 異世界のシステムに関与出来ない今の魔王様は、見た目相応の少女ほどの力しか無い。

 誰に狙われてる?

 異世界人? それともうちの世界の人間の国の刺客か?

 流石にPS誤を狙ってというのはありえない。周囲に人が消えたのは巻き込まない為のものなのか?

 いつ攻撃が来るか分からないこの状況。

 屋上までの距離が遠く感じられた。

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勇者を生暖かく見守る会(更新停止中) 深呼吸しすぎ侍 @kanpouyakushi

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