勇者を生暖かく見守る会(更新停止中)
深呼吸しすぎ侍
第1話 弄りすぎるとボーンとか角度とか分からなくなる
禍々しい色に汚染された湖の畔の古城。
ここは世界征服を狙う魔王軍の根城。その玉座の間にて金属鎧を纏った獅子の頭を持つ獣人が自身の主にこうべを下げる。その肩は緊張に震えていた。
「オモテヲアゲヨ」
玉座の間の隅々、腹の底に響く重低音の声の持ち主は闇のオーラを纏う水晶の巨体。魔王軍の頂点に位置する魔王様その人。
側には眼鏡を掛けた鴉の獣人を従えていた。
「発言ヲ許ス」
その言葉に若干の緊張を解く獅子。
「吾輩に軍の半分、いや三分の一を動かす事を許可して頂きたく参りました。吾輩なれば人間の国など容易く滅ぼすことができるでしょう。どうか吾輩めにお力をお貸しいただきたく……」
「ナラヌ!」
闇のオーラが魔王様の発言と共にこの場を吹き荒れる。
「異世界人の手薄な今、この機を逃す手はありませんぞ!」
「今ハマダ動ク時デハナイ」
人間の国に魔王軍の脅威となるものは少数であるが存在する。
異世界人。
何十人もの召喚術士が十日祈祷を重ね文字通り奇跡を『呼ぶ』儀式。それに応え召喚されるのが異世界人だと伝えられている。
異世界人は此方の世界にはない圧倒的な力を持ち、たった一人で戦況をひっくり返す力を持つ。
先月、決して少なくはない犠牲を出しつつも排除に成功。獅子も重傷を負い今まで床に伏せていた。
魔王様の重圧に耐えつつ獅子は負けじと進言するが、発言の度に魔王様の気分を損ねている事実。魔王様が険しい表情になる度、顔の水晶が割れ、ゴトゴトと落ち床の絨毯を汚す。その度に鴉の獣人は黙って箒とチリトリを持って落ちている物を掃く。
獅子はこの鴉が嫌いだ。
魔王様に取り繕って二番目の地位にいるこの鴉が。
行軍を魔王様に進言したのも、手柄を取ってこの鴉の地位を奪う為のもの。こちらの思惑を知ってか眼鏡の奥で細い目が笑っている。
魔王様の側近には吾輩こそが相応しい。こんな鴉になど護衛が任せられるか。その一心が獅子を動かしていた。
しかし実際に魔王様を不快にしているのは目の前の自身である事。何故魔王様は人間の国を攻めにいかないのか。きっとこの鴉に唆されているに違いない。そう獅子は鴉を睨む。
「何卒魔王様、吾輩に機会を」
「クドイ!」
激昂する魔王様。吹き荒れる闇のオーラは益々濃くなり、玉座から立ち上がろうとして、
『あれぇ? z軸ってこっちだっけ?』
魔王様の中からボソボソと小声が聞こえた次の瞬間、足を組んだままの魔王のふくらはぎから先が伸びて城の壁を貫通した。
「少シ気分ガ悪イ、話ハ後日聞コウ」
「御意」
この場は怒りを鎮めてもらい、後日改めて陳情するしかないと諦めた獅子は素直に首を垂れる。
素直になった獅子を確認した魔王様は首を回転させながら巨体を玉座に深く沈め、玉座の
いつの間にか鴉の獣人も姿を消し、玉座の間には獅子一人が深く頭を下げているだけであった。
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