無から宇宙が生まれたならば

空っぽなはずの頭から漏れる言葉に色がないと並べ立てた言い訳に縋りついて歩いた過去だけが真実だったと錯覚できるのは僕の立派な才能だった。君はいないと知りながらも罫線にピッタリ揃うように、押し寄せる八重桜の花の色と新たな命への祝福を裏切ってまでも、まっすぐ過去へと道筋をつけるために並べた。


言葉たち。


無常を、残酷な毒を浴びせて紺碧の夜空に溶かした角砂糖四つ分の白い甘みがいつまでものどに絡まり消えそうになかった。はずなのに、その無常をついに知った。

何度も繰り返される君と僕という確実性と繰り返しを無意味にしてしまう完全な同一性のやるせなさが空に浮かび、窓際の散った花の淡い赤を照らす。車に踏まれてへしゃげた金属片のもとのかたちを、ふと思い出そうした罪は僕を君から遠ざけて、遠ざかれば遠ざかるほど近づいて、記憶の逆遠近法だけが繰り返しの無意味さを連続へと引き戻して、優しくて、言い訳を詩と呼ぶことを許してくれるのだ。


はじめて拾った骨は白く軽く、いつか雲になるのかも知らず、死ぬ意思を記した紙と鉛筆の芯と一緒に曖昧すぎる遠い光に消えてゆく定めならば、いっそ僕を引き連れて死んでくれよって。嘘だよ、そんなの嘘。

髑髏のマークを掲げた少年少女の偽りの海賊船が、どこかに行き着くと信じて疑わずに漕ぎ出すのをぼうと見ていた、遠い過去の誰かのように、見送るしかなかった。僕の罪。

彼らの鉄の心臓を撃ち貫くのに必要なだけの力を計算して、足りないと知って、チクタクと奥で鳴る深い赤の懐かしさを感じながらも、やっぱり君はそこにいたのか、やっぱり君はそこにいたのかと、狂ったように繰り返している。


馬鹿だね、ごめんね、なんてそんなわけないじゃんって笑う君が落ちる。

夢が冷たい運命を受け入れた春に、末期の眼に映ったはずの僕の沈黙を壊すには、どんな言葉がふさわしかっただろう。それは、君の目に美しく映っただろうか。

モニターの頼りない波線だけが命の証だなんて怪しい話を信じてたまるかと壊した鬱陶しい春の空に浮く過去と幻想のなかに築き上げたふたりの未来。


未来。


未来。


あるはずのない未来。


あったはずの未来。



粒々と降る流星が僕を呼ぶ声は優しくて、心の絶望の描き方を知らずにただ死を欲して散り散りになって、どうしたって光ってしまう。

咲いた桜の非連続なありさまに無常以上の再現性を期待したのに、裏切られて死んで、咲くこともなく春が過ぎた。欠落した暗い腹の底を埋めるように沈む冷たい過去。なんとなく思い出した君との思い出、彷徨い歩いてたどり着いた桃源郷にもいつか夜は来るのだ。


もう眠ろう、もう眠ろうよって誘う声。



し。


しー。


ほらやっぱり。


真に静謐な世界においては、

君の鼓動すらも聞こえない。


でも、君の声だけが。

君の声だけが

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断片からなる銀河の星々の端にいる君はもう testtest @testtest

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