最後まで読んではいないのですが、この方の広範な知識が散りばめられた物語群に圧倒されます。短編小説をこんなに多く繰り出せる凄さと技術力が素晴らしいです。特に五感を表現する時の微細で豊かな内容には目を見張らされます。まだ連載は続いているとのこと。じっくり読ませていただきます。
一編が短いのに、その後に考える時間が長い。もしくは、「考えて導き出された答えを知るのが怖い」せいで、そのまま次へと読み進んでしまう。なのにいつまでも、何かを感じた心がどきどきと音を立てて落ち着かない。そういう小説ばかり並んでいる。 毎日ここに来て読むことはできない。自分の気持ちがある程度安定しているときでないと。あのどきどきに耐えられない。 なにか、えぐってくる。でも、誰にも言わない。言えない。 そういう、苦しいような、それが快感であるような、そういう作品集。
それは紛れもなく短編として完結しているのだけれども、描かれた世界にはもっと想像の余地があって、それでも物語としては終わらせられている。時として多くが語られたり、逆に与えられる情報は少なかったり。魅せる文脈は読み手に寄り添っているけれど、受取方は十人十色、こうといった解釈を決めつけさせないこともある、小説らしい小説だと思いました。素晴らしい作品たちです。
そこには小世界がちゃんとあります。だから没頭できます。そして現実とは違う世界へ連れて行ってくれます。だから私を励まします。
「僕が考えたおもしろい漫画、僕が考えたすごいアニメを文章にしました。」という稚拙な作品が跋扈する中で、真に小説を小説として読ませ、楽しませる文章の上手さを持ち、教養に裏打ちされたテーマを設定する魅力的な短編集です。