ふくらむ言葉とばらばらに

夜に降る石榴のような輝きが幻だと気付いた時には、地面ばかり見る僕を嘲笑う街の喧騒に君の声は消え、春の手を差し伸べ、死がどこにでもあるのだと素直さを握りしめる意志を示してくれていた。

土に隠れて待つ冷たい平穏を無邪気に乱すように繕った糸で道化師のように踊る笑う泣くのだ、君の不在と不安定に揺れるおのれの声を聞きながら、歌いながら、川沿いの道を歩く。

永遠に続くはずの木曜日が終わることになんとなく気づき始めて君が遠ざかり君以外の誰かの言葉や温もりを肯定してしまいたくなる夜に、引き裂かれて生まれなかった数々の詩を、君なしで蘇らせる、僕は数える、そうして作った詩の数を、君の言葉を、それほど僕は愚かだ。

言語を定量的に測定する方法では恋や愛を語るのには不足していて、空に描かれたユークリッド幾何学の謎を解き明かすたび、リルケの詩のような繊細な響きが心をちくちく刺し、届かない幻想への嫉妬が心の奥に穴を開け、赤い絵具で春をたっぷりと満たしていく。

時の精査を経た言葉は思うよりもずっと脆くて、青春を彩ったはずの数々のそれらはばらばらになって夜の底に沈んでいった。

月の光でも、君の死は見える、君の詩は見える、君の言葉は僕の中にあって、届かない夜空の星とその輝きと同じくらい、退屈な瞬きで僕を動揺させた。

残された確かなメッセージを電子的な記号にして読み直してみる、バイナリーの数字の並びがすべて君と僕の記憶であればいいのにね、読みきれないくらいの過去からの手紙を読みながら願う、君なしでは浮かんだままのアイデンティティを鋭利な言葉だけで切り裂いて、彗星のような光が散るのを期待するのに闇しかないなんて、悲しいだけの身体を軋ませるけど、これは絶望じゃないって叫ぶ。

青い罪と愛と自由を奪う夜に一条の灯りとなる人工的なLEDの落とす残酷さを、熱苦しいくらいの夜の吐息を、永遠にさよなら、と言ってみてから涙がずっととまらなくなった。

片足だけでケンケン飛びながら、新聞紙をしいて春を迎えた草原の匂いを遠くに嗅いだ。


これはきっと運命だ。なんて、それも嘘なんでしょう?

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