ともだち100人できたかな?
つるよしの
ともだち100人できるかな?
「それでは、みなさん、明日、小学1年生に、なれるかな? みんなに事前に配った学習用スマホは持ってきましたかー?」
「はーい!」
この星にも、全植民星域で行われる、春恒例の儀式の時期がやってきた。その星の就学年齢に達した子どもたちが、リトル・フジヤマと呼ばれた山に、一斉に集められている。
入学式を明日迎える予定の子どもたちのテンションは、異様なほど高い。
そんな子ども達を前に、ほがらかに、にこやかに、教師が言う。
「決まりごとはただひとつだけ。みなさんの持っているスマホに、100人のお友達の連絡先を、登録すること。制限時間は1時間。ホイッスルが鳴ったら試験のはじまり、2度目のホイッスルはおしまいの合図です。ではよーい、スタート!」
山麓に、教師が胸に下げた笛の音が鋭く響く。極めてアナログな笛だが、儀式には昔からこの古風な笛が必須のものとされている。その由来は、教師の誰も知らぬが。
さて、そこにいる児童の数はおよそ数万人。教師の声に促された子どもたちが一斉に、まずは隣にいる子に声をかける。
「ねぇ、ボクのはじめてのお友達になってくれる?」
「うん、いいよ、これからよろしくね」
そうして合意に達した子ども同士は、素早く手持ちのスマホに、お互いの名前、
教師が注意喚起の声を掛ける。
「ひとつでも必要事項がぬけているお友達とは、友達にならないように気をつけましょうねー」
「ごめん、ワタシ、SNSは何にもやって居ないの」
「ああじゃ、合意不成立だね。ごめん、さよなら」
「どう声をかけて、友達登録を成立させるかで、社交性も判定できるし、スマホを操る能力から操作速度や精度も判明しますからな。これは、就学試験として、なかなか上手くできていますな」
来賓の植民評議会長が感心したように唸り、その声に教師のひとりが胸を張って微笑む。
「そうです、さらには、我々がなかなか知り得ぬ個人情報も。ことにSNSのアカウント、特に裏アカウントなどは、なかなか入学してしまうと分かりかねますからね」
山の麓には、子供たちの声をかけあう喧騒が引き続き、響く。
友達登録が100人に満たぬ子どもは、残りの友だちを見つけるのに躍起になり、手当たり次第に声をかけ回る。
そして、45分を経過した頃には、合格者と不合格者のだいたいが絞れてくる。
だが、正念場はこれからだ。
ここで、重要な事項を教師が再確認すべく、声を張り上げる。
「99人ではダメですよ、101人でもダメです。あくまで100人ぴったりのお友達を、登録することが大事なのですよー」
子どもたちにとって、真の闘いは100人に達してからなのだ。
すでに100人に達したものは、ここから如何に登録の依頼を断れるかが勝負となる。
「100人まで、もう少しなんだ、友達になってくれない?」
「ごめんなさい、ワタシもう100人集まっちゃったの」
教師と評議会長が小声で囁きあう。
「これは、物事に対する選別の判断力を試すいい試験になります」
「うむ。有事の際に、いかに感情に流されず、意志を貫けるかも大事なことですな」
55分経過。タイムリミットまであと5分。子ども達の声に焦りと必死さが増す。
「そう言わないで、ボクと友達になっておくと得だよ。ボクのお父さんはこの星の評議会議員だから」
「あらそう、じゃあ、他の子との登録を消して、あなたと友達になるわ」
友達登録の抹消は、すぐにお互いの端末を通じて通知され、途端に、登録を消された子どもの悲痛な絶叫が上がる。
修羅場である。
やがて試験の終わりを告げるホイッスルが、山麓に響き渡る。
「友達100人できたかなー?!」
教師のその声に、スマホに登録した友達が100人にぴったり達した子どもたちのみが胸を張って教師の前に整列する。
自分のスマホから、得た友達登録データを教師のスマホに転送し、それを教師が確認すれば、合格だ。
その数は全体の数十分の一に過ぎない。
「はい、あなたたちが今年の就学合格者です、おめでとう!」
合格者には、オニギリと呼ばれる細かい凸凹が刻印されたけったいなカタチの三角のメダルが渡される。そしてこれから記念のリトル・フジヤマ登山を行い、山頂でメダルを胸に記念撮影をする。この最後の一連の流れまでが、大事な儀礼なのだ。
友達100人を達成できなかった、その他の子どもたちは、ぞろぞろと肩を落としつつ街への帰路に就く。試験に落ちた彼ら彼女らには、この先一生、教育を受ける機会すら与えられない。
その後ろ姿を眺めながら、教師達は満足げに言葉を交わす。
「今年も無事に、就学可能者が決まりましたね」
「はい。合格した彼ら彼女らは、必ずや、この星を将来担って立つ優秀な人材となるでしょう」
「うむ、だがそれにはまだ数が多すぎやしないかな。支配階級である上流市民にこの子達が属するとしたら、もう少し絞らないといかんのではないか?」
「ご安心を。中学にあがる際にも同様の試験が行われます。さらには高校に入学する際にも。その頃にはかなり数が絞られて、少数精鋭の人材を上流市民に提供することが可能になりますよ」
その言葉に、評議会議長は顎をさすりながら、安心したように頷いた。そして心の中で、独りごちるのであった。
かつて、人間の長い歴史のなか、ここまで平等且つ公平に、教育の機会を与えられる時代があっただろうか。
いやはや、人類って奴は進歩する生物だ。
ともだち100人できたかな? つるよしの @tsuru_yoshino
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