12 杯目 剥離
SIDE
やはり彼らでは不十分だ。誠に残念だが、此度の盟友たり得ない。気の長い平和主義者と言えば聞こえは良いが、このような非常事態に迅速な行動を選択できないことは、うどんの発展を願う同朋とするには不十分だ。平時はそれでも良いが、今は平時ではないのだ。
かと言って孤立無援に陥った訳ではない。希望の光は既に射している。我々の声明に同調し、共闘を志願してくれた者が何名か現れたのだ。
我々の声明を、私はSNSの個人アカウントで発信していた。今日の会議に参加した数名のように普段から相互フォローし意見交換する関係にある者も勿論いるが、今回の発信によってFF外からも支援のコメントが届いた。応援ばかりでなく、今回のマナー撲滅に向け活動に直接加わりたいとの申し出もいくつか来ている。その中の何名かは、やわやわの穏健派とは異なり、うどんの安寧秩序を守るのために立ち上がってくれる行動派かもしれない。彼らの中にこそ、真の同朋となれる者がいるかもしれない。それこそが、今の私の希望なのだ。
「入って、どうぞ」
ビン底の如く分厚い眼鏡をかけたチェックシャツの男が、皆帰った部室に入ってきた。希望の一筋、コシロー氏である。
「失礼します! 昨日ご連絡いたしましたハンドルネーム『コシロー』、本名……」
「本名は良いよ。互いが識別できればそれが本名かどうかでさしたる違いはないと私は考えているので。それに何かあった時の秘密保持を考えるなら、明かさずに済むならその方が良い」
「はいっ!」
大変失礼ながら、見た目で判断するならば、プロフィールにある通りコシロー氏はいかにも典型的な工学部生、概して不健康そうな肉体をしている。しかし眼鏡の奥の瞳は上質なイリコの如くきらきら輝いており、うどん精神に燃えていることが伺える。
「私は、次なる一手は早急かつ直接的であるべきと考えているんだ。だけれども、既にやり取りしているメンバー、即ち例の声明に関わった人々はそう考えていないんだ。だから君のように熱意と危機意識のある人が来てくれて嬉しいよ」
「ありがとうございます。僕の友人で何人か心当たりがあるので、帰ったら彼らにもあなたの方針を伝えてみます」
「それはありがたい。もう数日中には直接的行動を執りたいから、すぐに連絡してくれると助かる……こういうのは本当に初期の迅速な行動が重要だからね。短期決戦が大切なんだ。決して順次エスカレートでは駄目なんだ。なぜかって、のんびりしてると、問題解決はずるずると先延ばしになるからだ。我々が今食おうとしているこのうどんは、延び始めたが最後、永遠にふやけ続け食べ終わらなくなっちまう。だからこそ、これ以上延びないうちにさっさと食い切らなきゃあいかんのだ。私はそう思う」
それを聞いてコシロー氏の顔がさっと曇った。
「ちょっと待ってください。今の発言はいかがなものかと。無論あなたがコシを重視していることは過去の投稿で知っていますが、やわ麺を
残り半分は粉落としだろうか、などと余計なことを考えている場合ではなかった。こんな所で共闘メンバーを失ってたまるか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。今のは私が悪かった」
弁解と捉えられても良い。同朋を逃す訳にはいかない。絶対にだ!
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