8 杯目 轟々

SIDE 谷川たにかわ 竜満りゅうま


 オンライン意見交換会は、石丸から連絡を受けた翌日の授業終わりに設定された。石丸の手によって、ミーティング名は安直にうどん会議と命名された。玄海げんかい大学うどん研究会からは石丸と宮武君、OBとしての僕の3 人が出席する。外部では羽州稲庭うしゅういなにわ大学、国際信州学院大学、東讃とうさん電波高専から数名が出席することになっている。


「では皆さんお揃いのようですので、開始します」

 司会の石丸が切り出した。

「既に私から確認した通り、紘目ひろめ 茉奈まな氏によって昨日発表されたうどんに関する投稿については、皆さん否定的な感想を抱いているという点で一致しています。今日は、この投稿の問題点と我々が今後取るべき対応、特に紘目氏側に対しどのような行動を起こすのかということについて、議論を進めたいと思います」


「まず私、石丸いしまるの考えとしては、この投稿の問題点はありもしない所にマナーを勝手に捏造した点にあります。特にうどんの命とも言えるコシを否定した点は、うどんを根幹から否定する、誠に独善的な思想であると考えています。イデオロギー自体に問題の本質がある訳で、少々文言を変えれば良いという問題ではありません。従って紘目氏に対しては全面的な撤回と謝罪を要求するのが妥当と考えます。特に、各団体で個別の声明を出すというよりは協議の上連名で表明する方が、我々が同じ問題意識を共有していることを紘目氏や世間に伝える効果が高いでしょう」


 手短に表明を終えると、国際信州学院大学の諏訪氏が手を挙げた。

「ありがとうございます。基本的には私も同様の考えです。ですが一点だけ。コシをうどんの命と表現されましたが、コシに重点を置かないうどんも各地に多々あるように思います。ですからコシについては触れなくとも良いように思います。あくまでマナーを創作した点について指摘する方が実態に即していると考えます」

「東讃電波高専の山越やまごえです。そこは私も少し疑問に感じました。無論、当地讃岐うどんをはじめとしてコシが重視される傾向にあるのは確かですが、全国を見ると「コシありうどん」とは別にコシ以外の特色を持って分化あるいは平行進化した種があることもまた事実です。それぞれがそれぞれの形で地元民に受け入れられている現状を踏まえると、コシ云々というよりは「角の立つうどん」を否定した点を指摘する方が良いように思います」

 そして羽州稲庭うしゅういなにわ大学の佐藤氏。

「私の読み取り不足であれば申し訳ないのですが、角の有無とコシとの関連付けが元の投稿には見られないので、『角の有無を以て良いうどんとそうでないうどんに区別した』点について指摘する方が、投稿に対するレスポンスとしては他の解釈を生みにくい正確な対応と言えるかもしれませんね」


 思っていた以上の集中砲火を浴びてしまった。石丸の思想からすると、こういった場では敵を作りやすいだろうと想像はしていたが、開始数分でこの有様になるとは。各地の愛好家と本格的に議論するのは今回がほぼ初めてであるから、今日は彼なりに柔らかく抑えた表現にしていることは読み取れる。しかしそれでもにじみ出る癖は、早くも伝わってしまったようだ。この会議はまとまるのか……いや、まとめるよう手助けするのがこの場での自分の役割かもしれない。僕はそう感じた。

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