6 杯目 凪

SIDE 谷川たにかわ 竜満りゅうま


 福岡を離れ、久々に友人から連絡が来たと思ったら、案の定うどんトピックスだった。時節の挨拶もなくいきなり本題に入る所が、石丸らしいといえばらしい。

「謎マナーね……ふうん」

 石丸から転送された投稿を見た後、僕はSNSで関連するコメントを検索した。これは厄介なことになるかもしれない。そう感じた。東京の大学院へ進学して以降、僕は彼と直接会うことはなくなった。けれど四年間もサークルで顔を合わせてきた関係だから、うどんが絡む話題に関して彼が何を感じどう行動するか、おおよその見当は付く。かつてに比べれば、彼は思想をストレートに表明することよりも実利を得ることを重視するようになってきたけれど、それは何も批判的行動を起こさないことを意味しない。


「君はどうしたい?」

 石丸にそう聞いてみた。返事はすぐに来た。やはり、マナー講師自身による発言の撤回と、うどんへの認識の誤りを認める声明を出すよう何らかの形で講師に対し求めること。少なくともこれらが必須であり、早急に実施したいとの主張だった。だがその前に、全国の同朋たちが今回の件をどのように捉えているか探る必要がある、と彼は考えているようだ。

 確かに、考えてみると麺類を愛する者が集う団体は一本化されていない。地方レベルであちこちにひっそりと存在している程度で、俯瞰的な把握が容易でない。近年はSNSが若者を中心に広く利用されるようになってきたから、大学の麺サークルなどはそれなりに認知しやすくなってきた。とはいえ一般のサークルに比べるとその数は少なく、うどん・そばの有名な消費地に時々見つかるくらいだ。距離的な制約もあるため直接の交流は少なく、各団体の性格や方向性は僕もよく分かっていない。そこで今回のような共通の問題が発生した場合には、ひとまず各団体の認識を確認することが今後の活動を進める上で重要かもしれない。変容しつつあるとはいえ本質的には迅速な行動派である石丸が、先に動いてくれたようだ。そこで外部との連絡は一旦彼に任せ、僕はSNS上での投稿からネット民の反応を見ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る