第7話

 数日が経ち、空に占める雲の割合少なくなって、ようやく透き通った青色が空一面に広がるようになった。屋上の縁に腰かけて、必要以上に足をぶらぶらさせたい、そんな心持だった。

「今日が試験の発表日だっていうのに、ガンダルフ君は余裕だな」

 その声は、少し弾んでいた。足音もなく、トーイが僕の数メートル後ろで、ジャンバーのポケットに両手を突っ込んで立っていて、なんとなくため息をつきたくなった。

「結果は、どうせ引き分けなんでしょ」

「大当たり」

 ピースサインをしてくるトーイはやっぱり機嫌がいいようだった。

「まあ、でもすごいな、ガンダルフ君も。全科目満点。でも、それなら私も全科目満点を取ればいいだけの話だ」

 結局懸念していた通りになってしまったようだった。彼に見せてもらった資料によれば、彼女は、前の機関にいるときから、ずっと僕と同じく正答率百パーセントだったらしい。わざわざ、僕に宣戦布告しに来たくらいだし、彼女がここでも全科目満点をとることは想像に難くなかった。トップが二人、僕が負けることはなかったけど、彼女も負けることはなった。もし、ニーヤが満点を取れていたら二対一でこちら側の勝利だったが、あいつがしくじったからしょうがない。

 たぶん今回のことで、ニーヤは補佐官として機関から処分を食らうことだろう。ニーヤがこの機関のトップになることを阻止するのは上層部から彼に任されていた任務だった。とりあえず、ニーヤがこの施設からいなくなることは確実だった。

「さてと、ガンダルフ君、トップが二人出てしまった場合、規則ではどうすると書いてあったかい?」

「機関に関する権限は両者が持ち、権限の行使が認められるのは、両者が合意したときのみに限る、って書いてあったかな」

 ふふふっと僕の返事を聞いて、トーイはニヤニヤといじわるそうに笑う。正直言って、あまり見ていていい気分のしない表情だった。

「それで、ガンダルフ君は部活を設立することに同意してくれるかい?」

「いやだと言ったら?」

「そのときは、規則に則って、私と勝負だ」

 癪なので、あえてさっきは言わなかったが、トップが二人の場合は、両者がなにがしかの勝負によって、どちらが上かを決めることができるという条文もある。この場合、結局はトーイと直接勝負する羽目になるだろうとあらかじめ予想はしていた。

「それで、何で勝負するつもりなの?」

「試験の日の事件の犯人を推理するというのはどうかな?どちらが犯人を見つけることができるかで勝負しようじゃないか」

 いろいろと想定はしていたけど、これは想定の範囲内の想定外だった。トーイなら、もっと、分かりやすく、チェスとかリバーシで勝負してくると考えていたのに、骨折り損だった。

「まあ、それでいいけど、勝負の審判は誰にするの?」

「別にいなくていいだろ。どちらがより合理的な推理をしたかぐらい審判がいなくたって、私たち二人で客観的に評価できるだろ」

 それとも、そんなこともできないのかというような目で、トーイは僕を見てくる。僕にだって、それくらいの客観性と公平性と、それにそれ相応のプライドがある。

「わかった。ただし、こっちの条件も呑んでもらうよ。勝負は明日の午前十時から午後五時半まで、ここでやる。その時間内で、より合理的で真実に近い推理をした方をこの施設のトップとする。それで、いい?」

 わっかりましたー、それじゃあ明日、そう言ってトーイは素早く、帰っていった。せっかく空はいい色をしているというのに、気分はブルーな感じだった。

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