Z級サメ映画「ジュラシック・メガロドンVSエクソシスト」の感想

武州人也

これは非実在サメ映画です

 もはやB級パニック映画の代表選手ともいえる「サメ映画」。


 1975年に公開されたスティーブン・スピルバーグの傑作「ジョーズ」の後を追うように次々と作られたサメ映画は、今現在二百本近い膨大な数になっているという。ワニやヘビやクモだって、こんなべらぼうな数の映画は作られていない。もっとも、その多くは駄作と切って捨てられる程度の評価しか得ておらず、「サメ映画=殆ど地雷」というあんまりな言い方をされることもある。


 そんなサメ映画の末席に名を連ねる「ジュラシック・メガロドンVSエクソシスト」という映画はご存じであろうか。


 ……実は一か月前、私は家族と相談の末に沖縄旅行をキャンセルし、空いてしまった予定を埋めるために「映画を見てみよう」と思い立った。その「おうち時間」を利用して視聴したのが、この映画「ジュラシック・メガロドンVSエクソシスト」である。製作会社はこれを送り出した一年後に倒産、監督は詐欺に関わったかどで逮捕され、主演女優が自殺未遂を起こした末に芸能界を引退したという「呪われた映画」としても知られている一作だ。


 はっきり言っておくが、この映画の視聴はおすすめしない。怖いもの見たさという欲求に駆られたとしても、だ。精神に重大な悪影響を及ぼす危険がある。

 ……こんなことを言ってしまうと、却って煽るような物言いだが……とにかく視聴後に何が起こっても私の責任ではない。私は止めたからな。


 そんな「ジュラシック・メガロドンVSエクソシスト」という映画であるが、どれだけ酷いのかということを解説していこうと思う。


※以降ネタバレ有りにつき注意。

 

 まず最初に挙げられるクソ映画ポイントとして、DVDジャケットにデカデカとホホジロザメを写しておきながら、サメが全く映らないのである。正確に測ってみたところ、サメの出演時間はわずか一分二十秒に過ぎなかった。しかもサメが映るシーンは全部海中をCGのサメがゆっくり泳ぐ映像を使い回したものという徹底したリサイクルぶり。

 サメCGの出来も酷い。CGの出来が酷いのは殆どのサメ映画に言えることなので特筆すべき欠点ではないのだが、後で見た情報によるとこのCGは監督が十二年前に作った別のサメ映画のCGを流用したものだという。十二年前のCGをリサイクルするなや。

 その上、サメと人が一緒の画面に映るシーンがまさかのゼロ。人がサメに捕食されるシーンは「サメの背びれが人に近づく→海面で人が急に絶叫して手をばしゃばしゃさせる→人が海中に沈んでいく→海面に赤い液体が広がる」これのワンパターンしかない。このシーンが六回出てくる。

 ストーリーの方も最悪に尽きる。悪魔崇拝者が呼び出した悪魔の力で絶滅した巨大ザメのメガロドンが復活し、海水浴場で人を食い殺すというお話なのだが、とにかく違和感のありすぎるシーンのつなぎ方や大量に差し込まれた無意味な尺稼ぎシーンのせいで視聴していても退屈でしかない。しかも十五メートルのメガロドンとか言われてるのに大きさがどう見ても普通のホホジロザメレベル。CGが過去作の使い回しなせいであろう。

 極めつけは絵面の汚さ。なぜか登場人物が頻繁に嘔吐したり排便したりする。終盤に神父がメガロドンを呼び出した悪魔を討伐するためにエクソシズムを行うのだが、その部分で神父が嘔吐したり、悪魔に憑かれたアル中の男が神父に尿や茶色い霧をかけるシーンがあり、これらの汚物描写が的確に視聴者の精神を抉り取っていく。汚物耐性がない人は絶対に視聴すべきでない。


 以上が世紀のZ級クソ映画「ジュラシック・メガロドンVSエクソシスト」についての感想である。重ねて言うが、視聴はおすすめしない。人生の貴重な80分をこんな映画に使うべきでないことはキリギリスだって理解できる。


 






 この映画を見てからというもの、私はたびたび意識を失うようになった。それだけではない。私が意識を取り戻した時、なぜか決まって家の中にあるものが壊れているのだ。そんなことが起こるようになってから、家族も会社の同僚も、私を見ると怯えたような目をしておずおずと見つめてくるといった接し方をするようになった。

 そんなことが一週間ほど続いた。とうとう私は脳の病気を疑われ、妻に連れられて脳神経外科を受診した。しかし、結果は「異常なし」であった。

 さらに一週間後、妻の知り合いで霊媒師を名乗る太った中年女性が自宅を訪ねてきた。中年女性は私を指差し、「悪い霊が憑いている」などと喚き散らしたが、私が気を失ってから意識を取り戻すと、青い顔をしながら自宅の玄関から外に飛び出していく中年女性の姿が見えた。


 それから今に至るまで、たびたび気を失う私の病状は少しも改善していない。気を失っている間、私は一体何をしているのだろうか……家族に聞き出そうとすると、妻も息子も娘も怯えた表情をしたまま、首をぶるぶると震わせるばかりだ。

 そして先日、妻の額に切り傷が走っているのを見た私は、家族と離れて過ごす決心をした。この文章も、ビジネスホテルから私のブログにアクセスして書き込んでいる。近々私は荷物をまとめてアパートに単身引っ越す手はずになっている。




 だからどうか皆、最後のお願いだ。この映画を絶対に見ないでほしい。取り返しがつかないことになる。これを書いている私はもう、手遅れだから……

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Z級サメ映画「ジュラシック・メガロドンVSエクソシスト」の感想 武州人也 @hagachi-hm

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