第6話 ダンジョンで三色を和了ってゴブリンを討伐するぞ

【牌画について】

 ・麻雀牌は、萬子は漢数字(一~九)、筒子は丸数字(①~⑨)、索子は全角数字(1~9)、字牌はそのまま(東南西北白發中)で表示します。台詞の中などではなるべく【】でくくって表記します。

 ・ポン・カンの後の(上)(対)(下)(暗)は、上家・対面・下家から鳴いたことと暗槓を示します。

 ・チーは表記の通りです。「チー②①③」ならカン②のチー。


 以下、本編


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 前回のあらすじ:エルフィー(魔法使い)とアイリ(女騎士)が仲間になった!


 宿屋の前でエルフィーとアイリと合流。俺は昨日の試験の時と同じ上はGU、下はユニクロという服装のままなことに若干呆れられたが、どうしようもないものはどうしようもないので、そのまま2人に連れられてダンジョンへと向かった。道すがらこの世界の話を2人に聞いてみたが、どうやらダンジョンというのは古墳とか遺跡みたいな感じに「発見される」ものというよりは、今まで無かった場所に「出現している」ようなタイプのものらしい。まぁそんなの俺にとってはどっちでもいいのだが。道中でスライムが襲ってきた。アイリが真っ二つに切って、エルフィーが炎魔法で燃やしていた。あっさり撃退していたように見えるが、丸腰の俺1人では液体の身体に顔面を包まれて窒息死させられていた可能性も高い。やはり持つべきものは仲間だ。


 そんなことをしているうちに、俺たちが攻略へ向かうダンジョンの入口に着いた。一口にダンジョンと言ってもどのレベルの汚さなのか分からないのはちょっと不安だったのだが、遺跡タイプの床も壁も石造りになってて天井も高くわりと小綺麗なダンジョンだったのはありがたい。あと、天井は魔術なのか何なのか知らないけどぼんやりと謎の光を放っており、松明とかレミーラとかは必要無さそうだ。この明るさなら、もしダンジョンの中にひょっこり麻雀卓が置いてあっても、問題なく麻雀を打つことができそうだ。


 麻雀卓がある・・・。入口から慎重に部屋を進んでいったら、何個目かの部屋で真ん中にドンと麻雀卓があるのが見えた。しかも、すでに麻雀を打っているようだ。


 卓に座っているゴブリンが手を開く。


 ゴブリン(赤)手牌【三四五①②③③④⑤⑨⑨35 ロン4】


 ゴブリン達がキャッキャと喜んでいる。すると、手牌からバリバリと電流が走って、打っていた女武闘家がこちらへ吹っ飛んできた。壁に激突する寸前でアイリが受け止める。


「大丈夫?」

「うう、な、なんとか・・・」


 かろうじで意識は保っているが、電撃のダメージは大きいようで、自力では立ち上がれずにアイリに肩を借りる。一次試験では電撃をゴブリンに食らわせる側だったが、これを逆に人間が食らうとなかなかダメージは大きいようだ。さらに壁に強く叩きつけられまでしたら、その後さらにゴブリンから追撃が来るだろうことも思うと命に関わるだろう。


「ミオ! 大丈夫?」


 僧侶風の少女が女武闘家に走り寄ってくる。どうやら彼女達は2人パーティーのようだ。


「大丈夫だよ、サーヤ。この人達が受け止めてくれた。」

「ありがとうございます!」


 サーヤと呼ばれた僧侶風の少女は、その僧侶風の見た目通りに回復魔法が得意なようで、すぐにミオと呼ばれた女武闘家に回復魔法を掛け始める。


 麻雀卓の方に目を向ける。卓にはゴブリンが3匹座ってニヤニヤと好戦的な笑みを浮かべている。3対1か・・・。


「あいつらがやったのか・・・」


 ミオをサーヤに預けたアイリが、鞘に入った腰の剣に手を掛けながら憎らしそうにゴブリン達を見ながらつぶやく。


「落ち着け、アイリ。あいつらには物理攻撃は通じないはずだ。」

「分かってる。あいつらもあそこに座ったままだし、『麻雀』で倒せってことね。よーし、私が敵を討つわ!」

「待て待て待て、無闇に怪我人が増えても困る、ここは俺が行く。」

「アイリ、ここはタロウに任せてみましょう。」


 エルフィーも俺を推してくれた。助かる。普通ならもうちょっと様子を見てみたいところだが、他の誰かをゴブリンの餌食にさせるのは気が引ける。それに、このゴブリン達を討伐するためのヒントはすでに出揃っている。


 ゴブリン(赤)手牌【三四五①②③③④⑤⑨⑨35 ロン4】


 和了ったゴブリンの手牌はあの通りだが、2巡前に【2】を切っている。【235】から【5】を切って【14】の両面待ちに受けず、【2】を切ってわざわざカン【4】待ちに形を決めているのだ。相当三色に固執した打ち手じゃないとやらない打ち回しだ。


 もう1つのヒントは、卓に残されているミオの手牌と捨牌だ。


 手牌【四五六④⑤⑥⑦234456】


【4】を残して【⑦】切りした時の待ちが分からなかったのか(※【147】待ちだよ)、【7】が出た時に三色が崩れてしまうのを嫌ったのかは分からない。ただ、この形でも【④】では三色が崩れてしまうのだし、【14】なら三色になる【⑦】切りの方が明らかに優れているし、これが最終形と言っていいだろう。河を見ると、【4】切りで立直を掛けたが、一発目でツモった4枚目の【4】でゴブリンの待ちに刺さったようだ。なんという・・・。


 そもそも、卓に座っている3匹のゴブリンが赤・青・黄の三色だ。これはもう、三色を和了れってことよ。間違いない。


 俺が卓に座ると、ゴブリン達は点棒を俺の前に置いてきた。点箱に入れると25000点になったので、どうやら25000点持ちで始めるようだ。三色を和了ればいいようだが、点棒はどういう扱いなのだろうか。三色を和了られると致命的な電撃を食らうようだが、点棒の授受もあるようなので、クリア麻雀のように点棒も意識しておくべきだろうな。そんなことを考えながら親決めが終わり配牌を取る。どうやら俺は南家で、ドラ表示牌は【⑦】のようだ。


 配牌【二四六八①⑥⑦7南西白發中】


 パッとしない配牌だがツモに期待するしかない。そういえば、萬子の【二四六八】の形を「西ヨーロッパ」と表現するということを、この世界へ来る直前に打っていた時に雀荘メンバーが言っていた。すると、同卓してた他のメンバーが、「いや、西ヨーロッパは【西四六八】のことだろう」と主張していた。俺の仲間内ではそのどちらでもなく、西ヨーロッパと言えば【二四四六八】の形のことだったが。


 ツモ【九】、打【西】。

 ツモ【三】、打【白】。下家のゴブリンがポンをした【白】から切る。

 ツモ【五】、打【中】。萬子の三面張が出来て手牌が整ってきた。

 ツモ【一】、打【發】。またもや萬子の奇数引きだ。

 ツモ【6】、打【①】。この【①】を下家ゴブリンがポン。

 ツモ【七】、


 手牌【一二三四五六八九⑥⑦67南 ツモ七】


「よし! これはたしか『イッツー』よね!」


 アイリがヒソヒソとエルフィーに話し掛ける。


「そうよ。あとは筒子と索子次第ね・・・。それにしても、あんたでも『イッツー』は知ってるのね。」


 余計なことを言うから、2人でまたワーワーと言い争いを始めた。やれやれだ。俺は打【南】とする。たしかに一通の形はできたが、そう単純なものでもない。


 手牌【一二三四五六七八九⑥⑦67 ツモ5】


 こっちが入るか・・・。【⑥】か【⑦】の単騎選択だが、【⑥】も【⑦】も2枚ずつ見えている。じゃあ・・・


 俺が打【九】とすると、仲間達がざわつく。


「【九】!!??? 切り間違いじゃないの!? ねえ、あのタロウって田舎者は本当に大丈夫なの!?」

「きっと何か狙いがあるはずよ・・・」


【⑥】か【⑦】の単騎で一通の聴牌を取ろうとすると、どちらかを切ったらもう片方も切ることになるだろう。しかし、下家のゴブリンは【白】と【①】をポンしており、萬子や索子のバラ切りの後に場に複数枚切られた風牌が出てくるという、典型的な筒子染めの捨牌だ。ドラそばの【⑥】や【⑦】なんて喉から手が出るくらい欲しい所だろう。すでに聴牌している可能性だってある。


 次巡、


 手牌【一二三四五六七八⑥⑦567 ツモ四】


「リーチ!」


 ツモ【四】からの打【八】で立直を掛けると、仲間達が再びざわつく。


「さっきまで『イッツー』だったのに、いつの間にか『サンショク』になっている!?」

「なんてこと・・・まるで魔法ね・・・。」


 回復魔法による処置が終わったサーヤとミオも後ろ見に駆けつける。


「『リーチ』ってことは、あの人が優勢ってことですか!?」

「そうだけど、私も『リーチ』の後にゴブリンから反撃を食らったので、まだ油断はできないわ・・・。」


 下家の筒子に染めているゴブリンが何を切るか、ツモった牌を手牌の上に置いて考えている。


 ゴブリン(赤)手牌【②②⑤⑥⑧⑧⑧ ポン(上)① ポン(対)白 ツモ②】


 少し考えてから、「やっぱりこれか」とばかりに、手出しで牌を切ってくる。打【⑤】。


「ロン!」


 手牌【一二三四四五六七⑥⑦567 ロン⑤】


「メンピン即三色! 裏【⑤】で12000だ!」


 ゴブリン(赤)に向かってバリバリと電流が走って吹き飛ばす。後ろの壁にぶつかったゴブリン(赤)は悲鳴をあげながら蒸発するように消えていき、そこにはゴールドが残る。あー、やっぱりそういうシステムね。


「あの人スゴイです・・・」

「あの人ってたしか選抜試験で目立ってた人? あなた達の仲間なの?」


 驚くサーヤとミオに、エルフィーがなぜか自慢気に答える。


「そうよ、あいつは私達の仲間のタロウ。見た目は冒険者っぽくないただの田舎者みたいだけど、あの通り『麻雀』の腕は一級品よ!」


「スゴイです! スゴイです!」

「へー、頼りになりそうじゃん!」


 やれやれ、この流れだと敬語系年下僧侶っ子と元気系武闘家っ子が仲間になりそうな予感がするな・・・。まったく、やれやれだ。







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