第2話 冒険者適性試験の内容は麻雀だってよ
【牌画について】
・麻雀牌は、萬子は漢数字(一~九)、筒子は丸数字(①~⑨)、索子は全角数字(1~9)、字牌はそのまま(東南西北白發中)で表示します。台詞の中などではなるべく【】でくくって表記します。
・ポン・カンの後の(上)(対)(下)(暗)は、上家・対面・下家から鳴いたことと暗槓を示します。
・チーは表記の通りです。「チー②①③」ならカン②のチー。
以下、本編
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九蓮宝燈を和了ったら本当に死んでしまい、ファンタジー世界風だがなぜか言語は理解することができるあまりに都合の良い異世界に転生した俺の目に飛び込んできたのは、こんな内容のチラシだった。
「新ダンジョンの冒険者大募集! 新種モンスターには武器も魔法も一切通用せず、『麻雀』という特殊競技でしか討伐できないため、麻雀による冒険者適正試験を行います。」
死んでから異世界へ転生するまでの間に、神的な存在から特にチュートリアルとかスキルだかギフトだかそういうのが付与されるとかは無かったようだが、ちょうどこのチラシが飛んできたというのは「そういうこと」なのだろう。ちなみに、いちおう「ステータス」と呟いてみたが、目の前の空間にステータス画面が浮き出るようなことは無かった。「攻・防・速・運」とか表示されることを期待したのに。
チラシの下部には冒険者適正試験とやらが行われる日時と場所が地図付きで書かれている。そういえば時間も何も分からないぞ。チラシを持って歩きながら周りを見回す。広場に大きな時計があるのが目に入った。針は9:45あたりを指している。きっとこの世界も24時間制なのだろう。そして、チラシには「3/4の10時開始」と書いてある。この世界では今日が何月何日なのか知らないが、きっと3/4なのだろう。きっと、そういうことなのだ。チラシの地図の中にはこの広場っぽいものも書いてあり、5分も冒険者適性試験が行われる建物はここから5分も歩けば着きそうだ。ちょうど良い距離にある。
地図を頼りに冒険者適性試験が行われる建物に着いたが、受付に並んでいる冒険者候補はすでにほとんど居ない。俺が最後のようだ。案内されるがままに建物の中へ入っていく。広い建物の中には百人近い冒険者候補が、おのおの時間を潰して適性試験の開始を待っていた。鎧や兜を身に着けた戦士風、杖を持った魔法使い風、鍛え抜かれた身体を身軽な服装で包んでいる武闘家風など、様々な冒険者候補がいるものだ。そうして周りを見回しているうちに、会場が少しざわつきだし、広場の奥にあるステージの上へ正装の男が現れた。
「時間になりました。冒険者の皆様、適性試験へお集まりいただき誠にありがとうございます。」
試験官か司会か知らないが、とにかくあいつがこの試験を取り仕切るようだ。
「まずは、案内にも書いてあります通りに、今回発見された新ダンジョンに住むモンスターには『麻雀』という特殊競技でしか討伐できません。『麻雀』を知らない方には初心者用のレクチャーが必要になり、そこで3ヶ月の講習を受けていただくことになりますがよろしいでしょうか?」
そういえばチラシの下の方にそんなことが書いてあった。俺には関係ない話だから気にしなかったが、この世界では麻雀はどの程度の知名度のゲームなのだろうか。この案内に、会場は大きくざわつき、怒号が飛び交い始める。
「ふざけるな!」
「3ヶ月もあったら他のダンジョンの攻略に向かうぞ!」
それはそうだが、だったら最初から来るんじゃないよ。
そんな中で、ひときわ精悍な戦士風の冒険者が人混みから一歩前へ出て、よく通る声で問いかける。
「俺はB地区のダンジョンを16Fまで攻略した実績がある。それでも無理なのか。」
俺にはそのB地区だかの実績がどれくらいスゴイのか分からないが、会場のざわつき具合からするとかなりのものらしい。だが、試験官は答える。
「『麻雀』を知らないと無理でございます。よろしければ、試してみてください。」
指をパチンと鳴らすと、ステージの奥から鎖に縛られた何かが別の試験官に引きずられて出てきた。これは、ゴブリンか?
「こちらが新種のモンスターでございます。戦ってみますか?」
試験官が問いかけると、先程の戦士はうなずき、剣を鞘から抜いて斬りかかった。しかし。
ドン!
次の瞬間、戦士は壁まで吹き飛ばされ、戦士は気を失っていた。ゴブリンが目にも留まらぬ速さで戦士に体当たりをしたようだ。
「このように、新種モンスターに剣や魔法で攻撃をしようとすると、回避不能な速さの反撃を喰らいます。彼はなかなか強い戦士のようなので即死はしないでしょうが、ダンジョンでは致命傷になるでしょう。モンスターを倒せるのは・・・」
ここでパチンと指を鳴らす。別の試験官がこれまたステージの奥から、麻雀卓を出してくる。
「この『麻雀』のみです。」
ゴブリンは鎖をつけたまま卓に着く。
「新ダンジョンにはなぜか各所に『麻雀』をするための卓――『麻雀卓』と呼びましょう――が設置してあります。そして、新種のモンスターたちは積極的に『麻雀卓』の前に座っており、基本的には自分から攻撃してこないのです。」
試験官が説明している間、ゴブリンはジャラジャラと楽しそうに洗牌をしている。ここのモンスターはみんな麻雀狂なのか。
「こちらから攻撃をすると先程の彼のようになります。そのため、モンスターを討伐するにはこの特殊競技『麻雀』で挑むしかないというわけです。」
なるほど、分かりやすい。
「このゴブリン1匹を捕まえるために、すでに15人もの冒険者が犠牲になっています。そのため、今回の大々的かつ高額報酬の冒険者募集に至ったわけです。この中に『麻雀』を知っている・自信があるという冒険者候補の方はどれほどいらっしゃいますか?」
俺は当然麻雀に自信があるが、他の冒険者はどの程度のものなのか、手を上げながら周りを見回す。十数人が手を上げている。けっこう多いな。なんだよこの世界。
「よろしい。それでは手を上げた皆様には、このままこのホールで冒険者適性試験の上級者コースへ進んでいただきます。初心者コースの受講を希望の方は、あちらの扉から受講室へ移動してください。」
冒険者候補がゾロゾロと部屋を出て行く。後に残った面子の中に、1人、やかましいのが居る。
「おい!俺の『麻雀』であのゴブリンを退治させてくれよ!」
「・・・・・責任は持ちませんよ。」
答えを聞くか聞かないかのうちに、彼はゴブリンと同じ卓に着く。すぐに闘牌が始まる。
「俺は『麻雀』には自信があるんだ!」
配牌から字牌を切り出していった後の4巡目、彼の手牌が整ってきた。ちなみにドラ表示牌は【三】だ。
【一二 六八八 ③④⑤ ⑥⑧⑧ 45 ツモ⑧】
「よし!」
彼は迷わずに打【⑥】とする。目眩がする。ああして3つずつ並べていた時点で嫌な予感がしていたんだ。
【一二 六八八 ③④⑤ ⑧⑧⑧ 45 ツモ6】
「喰らえ!『リーチ』だ!!!」
打【六】でペン【三】待ちのリーチを掛ける。すると、会場がまたざわついた。
「あいつ、『リーチ』を使えるのか・・・」
「なかなかの腕前だな・・・」
「自分の待ちを間違えることはないという圧倒的な自信が無いとできない技だからな・・・」
「おい、しかもあれ、『筋引っ掛け』ってやつじゃないのか!?」
「あんなの止められねえだろ・・・」
マジか。
リーチ後に【五】【四】とツモ切る。ほらー、【一二】のペンチャンを外せば手なりで普通にタンヤオ三色になってたじゃん。
仮想和了形【五六八八④⑤⑥⑧⑧⑧456 ツモ四】
しかし、会場の冒険者候補のほとんどはそれに気付いていない。
「あんなに萬子が切られたらもう【三】が出るのも時間の問題か・・・」
「【六】【五】【四】と通ったら【三】も通ると思うもんな、恐ろしい奴だ・・・」
ゴブリンも冒険者候補達と同じ考えだったのか、安牌に屈したのか、それとも実は本手が入っていてたまたま手牌から押し出されたのか、こちらからはゴブリンの手牌が見えないため分からないが、なんにせよゴブリンから【三】が切られた。
「ロン!」
得意げに手牌を倒す。
「そして、『リーチ』による追加効果!いでよ、『裏ドラ』!」
【一二 八八 ③④⑤ ⑧⑧⑧ 456 ロン三 裏ドラ四】
「チッ、惜しいな。運の良い奴め。」
俺は唖然とする。俺が打ってたら高目一発ツモの裏1で倍満じゃねーか・・・・・。
仮想和了形【五六八八④⑤⑥⑧⑧⑧456 一発ツモ四 ドラ四 裏ドラ四】
和了が確定したところで、手牌からゴブリンに向かってバリバリと電撃が走り、ダメージが入ったようだ。1300点はゴブリンにとって充分に致命傷だったようで、フラフラになっている。
「ザッとこんなもんよ!」
「お見事でございます。」
試験官も普通に和了を褒めている。どこまで本気なんだ。嫌味で言っているんじゃないのか。自分がこんな環境で麻雀を打っていくのがなんだか心配になってきた。別の意味で。
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