第3話 エルフが断么九を和了って一次試験合格するぞ
【牌画について】
・麻雀牌は、萬子は漢数字(一~九)、筒子は丸数字(①~⑨)、索子は全角数字(1~9)、字牌はそのまま(東南西北白發中)で表示します。台詞の中などではなるべく【】でくくって表記します。
・ポン・カンの後の(上)(対)(下)(暗)は、上家・対面・下家から鳴いたことと暗槓を示します。
・チーは表記の通りです。「チー②①③」ならカン②のチー。
以下、本編
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前回のあらすじ:知らん奴が倍ツモに気付かずリーのみ1300点和了ってドヤ顔
「デモンストレーションはこれくらいで充分でしょう。それでは、一次試験を開始します! 準備を!」
試験官はまたパチンと指を鳴らす。すると、ゾロゾロと麻雀卓が何個も出てくる。卓は全て1席だけ空いており、他の席にはゴブリンっぽい何かが座っている。
「みなさんにやってもらうのは、好きな卓を選んで、運営が召喚した試験用ゴブリンを麻雀で討伐していただくことです。」
試験用ゴブリン。そんなのが居るのか。
「ただし、条件があります。先程彼が披露した『リーチ』ですが、これは私どもが冒険者候補の皆様に要求する必須技術としております。」
会場がまたざわつく。
「あれだけではダメなのか・・・」
「『リーチ』をせずとも和了れるだけの技術が必要になるとは・・・」
なんだこいつら。
試験官が続ける。
「この一次試験ではそれとは別に、以下の2つの技のどちらかで和了っていただきます。それは、『ピンフ』か『タンヤオ』です。このどちらかを使って和了れた者のみに二次試験へと進んでいただきます。」
やはりそんなもんか・・・。周りの奴らのリアクションを見るか。
やはり会場がざわつく。
「『ピンフ』か『タンヤオ』だと・・・」
「そりゃ和了ったことはあるが、それを自分の意志で発動させるのか・・・」
もうやだ。いや、まぁ俺には好都合なんだけどさ。
「質問があるがよろしいか?」
見目麗しい金髪耳長の美少女が手を上げて質問をする。お、あれはエルフだろうか。いろんなファンタジー作品で見たことある。あれは絶対にエルフだ。
「『ピンフ』も『タンヤオ』も発動条件を完璧にマスターしている私には造作もないことだが、もし配牌から【一】や【東】が3つあったらどうすればいい?」
多少はマトモに麻雀の話をできそうなやつが居て俺は嬉しいよ。
試験官は落ち着いて答える。
「各卓の配牌とツモは私どもであらかじめ設定しておりますので問題ございません。正しい選択をすればおのずと『ピンフ』か『タンヤオ』が発動するはずでございます。」
なるほどな。何を切るべきかを間違えなければ和了れるってことか。理不尽な不運で平和も断么九も和了れずに失格ではたまったものではないから、俺にとってはその方が都合が良いな。
「それでは、皆様ご自由な卓をお選びください!」
冒険者候補の動きは様々だ。我先にと空いている卓へ着こうとする者、卓へ着いた者の後ろに並ぶ者。卓の間をウロウロしてどの卓が良いか見極めようとする者。俺もあまり真っ先に卓に着こうとはせず、少し様子を見ることにした。二次試験へ進むのに先着何名とかの人数制限とか無いようだし。すると、先程質問をしたエルフが卓に着いて闘牌を始めるところだったので、後ろから見てみることにした。
エルフ手牌【四五六七八八⑤⑥⑥55666】
エルフは打【八】とした。うん、まぁ間違いではない。萬子の三面張を固定するのが一番手広く、最終形も良くなりやすい。あの手牌から【四】とか【⑤】を切らないのを見るだけで安心する。だが、断么九を和了ることを目的とするのなら、打【⑥】とした方が良かっただろう。【八】と【⑥】では鳴きやすさに違いがある。また、【⑥】をポンできて【三六九】の【九】では和了れない三面張になるよりも、【八】をポンできて【④⑦】待ちになる方が断么九が確定している分だけ優れている。
「チー!」
エルフは上家ゴブリンが切った【④】を素早く仕掛けた。一気に会場がざわつく。
「おい! あのエルフの魔法使い、『チー』と言ったぞ!?」
「『チー』は知ってるが、あれは役が無いと和了れなくなるんだろ!?」
「『チー』をして『ピンフ』で和了れるのか!?」
「『ピンフ』は『チー』や『ポン』をしていると使えないと聞いたことがあるが・・・」
「あのエルフ、『タンヤオ』を作るのに絶対の自信があるということか・・・」
その後、下家ゴブリンが【九】を切った直後に対面ゴブリンが【三】を切るが、エルフは手牌を倒さない。やはり会場がざわつく。
「なんであの【三】で和了らないんだ・・・?」
「あのエルフ、いったい何を狙ってやがる・・・?」
「フッ、あれは『ミノガシ』ってやつだろうよ・・・」
「なぜそんなことを? まさか!」
「そうか、『タンヤオ』にならない【九】と同じタイミングで出たから和了れないのか・・・」
「それを一瞬で把握したあのエルフ、只者じゃなさそうだな・・・」
こいつらすげー喋るな。
「ツモ!」
エルフ手牌【四五六七八55666 チー④⑤⑥ ツモ六】
エルフがすぐに【六】をツモり、会場がざわつくどころか、歓声が挙がる。
「すげえ!」
「自分で持ってくれば文句なしに和了れるのか!」
ここで和了れる設定になっていたか。しかし、【九】をツモってたらあのエルフはどうしてたんだろうな。和了れないからツモ切るのだろうが、その後にちゃんと【5】をポンして【四七】のノベタンに受けかえたりできるのだろうか。一次試験にそのレベルまでは求められてはいないということなのだろうか。
「おめでとうございます! エルフィー様、一次試験合格、一番乗りでございます!」
「フッ、当然よ! どう、完璧な和了だったでしょ?」
ここまでの観客のざわつきや、自分が場の主役とばかりにアピールするエルフがあまりに滑稽で、ついボソッと声が漏れてしまった。
「完璧? 上家の【4】をスルーしてるのにか。」
エルフは耳が長い。これは常識だ。耳が長いということは聴力も優れているのかどうかはファンタジー世界の常識に詳しくないから知らないが、そのエルフィーとかいうエルフは耳ざとく聞きつけて、こちらをクルッと向いてツカツカと歩み寄ってきた。
「そこのあんた、どういうこと?」
「あ、ああ、聞こえちまったか。」
「私の和了が完璧じゃないって?」
「いや、和了る直前に上家が切った【4】を鳴けば三色が付いたのにな、と。」
そう、下家ゴブリンが【九】を、対面ゴブリンが【三】を切った直後のざわつきの中で、上家ゴブリンは【4】を切っていたのだ。会場がまたざわつく。
「『サンショク』だと?」
「たしか『タンヤオ』や『ピンフ』よりも上位の手役だよな?」
「それを今この場で出すことができたというのか?」
いや、もういいからそういうの・・・。
「『サンショク』なんて、この試験では求められていないじゃない!」
エルフィーは俺の肩をドンと突き飛ばしてくる。肩パンすな。
「まぁそうだし、ツモ番を1回飛ばすから好き好きなんだけど、まだ巡目も早いし萬子は場に安いのに【九】は1枚しか見えていないし、【九】でも和了れるようになるのは大きいだろ?」
「何? そんな小難しい事を言って煙に巻こうとしても無駄よ!」
小難しいて・・・。
「そういうあんたはどれほどの実力なのよ! まさか一次試験には余裕で合格するんでしょうね? ほら、卓に着きなさい!」
エルフィーに小突かれて俺はそのまま卓に座らされる。やれやれ、もう少し様子を見ていようと思ってたのだが、こうなっては仕方ないな。俺も一次試験に参加するか・・・。
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