第4話 平和を和了って一次試験合格するぞ
【牌画について】
・麻雀牌は、萬子は漢数字(一~九)、筒子は丸数字(①~⑨)、索子は全角数字(1~9)、字牌はそのまま(東南西北白發中)で表示します。台詞の中などではなるべく【】でくくって表記します。本作の麻雀で使われている数牌は1~9ですが、【十】は十萬です。
・ポン・カンの後の(上)(対)(下)(暗)は、上家・対面・下家から鳴いたことと暗槓を示します。
・チーは表記の通りです。「チー②①③」ならカン②のチー。
以下、本編
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前回のあらすじ:エルフは気が強いので煽ってはいけない(戒め)
やれやれ、俺も強制的に一次試験の卓に着かされた。この世界に来てから自分で麻雀を打つのは初めてだ。そういえば詳細なルール説明をされてないぞ。おい、メンバー! 赤は何枚だ? チップはいくらだ? 目線で試験官に訴えるが、ニコリと笑顔を浮かべるのみ。まぁなんとかなるだろう。赤5が入っている様子も無いし、麻雀牌もルールも俺が知ってる一般的なものと同じだし、ドラ表示牌も普通に1枚めくられているだけだ(ちなみに【西】だ)。でも、これまで見てた手牌にはたまたま数牌が1~9しか来てないだけかもしれないので、【八九】のペン【七】待ちのつもりで立直を掛けた時にひょっこり【十】をツモる可能性もいちおう頭の隅に入れておくか・・・。
しょうもないことを考えながら配牌を開く。受験者が親番という設定のようだ。ゴブリンに第一ツモを促される。言葉は通じなくても麻雀を通してなら会話ができるかもしれないな。配牌の取り方まで同じなあたりは、さすがにこれはもう俺が知っている麻雀と全く同じものだと思っていいだろう。卓も見慣れたアルティマだ。うーん、このオレンジの枠よ(スベスベ
つーか、角にはUSBソケットまで付いてるじゃねーか。スマホの充電させろよ。あ、スマホはあるけど充電ケーブルは持ち歩いてねーや。それにしても、電力で稼働してるのか? なんかモブ試験官が魔力込めてたっぽいから、電気の代わりに魔力で動いているのかもしれないな。それじゃあ、麻雀卓じゃなくて魔雀卓だなw
配牌【二三七八②③③④⑦158東南】
まずまずの配牌だ。俺は第一打に【東】を選ぶ。すると、会場がざわつく。
「おい、あいつ親なのにいきなり【東】を切ってるぞw」
「ヘンテコな格好をしてるけどどこの田舎者だ? 常識ってものを知らねーなw」
「あいつの村では『ダブトン』のことを誰も知らないんじゃねーか?www」
知っとるわい。俺も普通なら取っておくわ。ただ、この試験は平和か断么九を和了れってものだ。どちらからも程遠い配牌だったらとりあえずダブ東も持っておくが、配牌に雀頭が無くてかつ平和がハッキリと見えるのならこうした方がわずかに得なんだよ。それに気付いたのか、エルフィーとかいう気の強いエルフは真剣な目付きをしている。
「あの田舎者、まさか【南】はいわゆる『オタカゼ』であることを知っている・・・?」
そらそうよ。えっ、この世界の雀士、自風や場風をちゃんと把握できないの・・・? 言われてみれば、このゴブリンどもはドラ表示牌の【西】を見たり字牌を切る時に、やたらと指で他家を反時計回りに指差し確認している。これ、「東南西北」と数えて自風を確認してるのか。あ、上家ゴブリンが何か切ろうとしたけど、ドラ表示牌を見てから指差し確認して切るのを止めてる。あれ、【北】を切ろうとしてたな。ちょっとかわいいじゃねーか。
手牌【二三七八②③③④⑦158南 ツモ南】
「あいつ、残した【南】が重なったぞ!」
「フン、なんて運の良い奴だ・・・」
「しかし、俺だったら河にいきなり2枚【南】が並んでいたな・・・。」
手牌バラすなよ・・・。まぁゴブリンはきっと人語を理解しないのだろう。そうだよな・・・?
1巡目ですぐに雀頭ができて、両面も4つ見えている。ここからはほぼ手なりだろう。【⑦】、【⑤】、【九】とツモって一向聴にたどり着く。
手牌【二三七八②③③④⑤⑦⑦南南 ツモ九】
ツモ【六】ならともかく、ツモ【九】なら迷うことは無いな。俺はノータイムで打【⑦】とする。案の定、会場がざわつく。
「あの田舎者、なんて【⑦】なんか切ってるんだ?w」
「【九】をツモったから『タンヤオ』は諦めちまったんじゃないかw」
「ありゃ見所が無いな、他の卓を見に行こうぜ。」
「フッ、愚かだな・・・。【南】を切っておけば、【六】をツモってきた時に【九】と入れ替えれば『タンヤオ』になるかもしれぬというのに・・・」
薄い。可能性として薄すぎるんだよ、そんなの。早々に【六】をツモってきて、【四】(もしくは【④】)の方で聴牌して、さらに【④】(もしくは【四】)の高目で和了らないと断么九にならないんだ。他の卓を見に行こうとするアホどもと違い、エルフィーとかいう気の強く胸の薄いエルフは真剣な眼差しのままだし、多少は見所があるかもしれない。
「いや、あの手牌から『タンヤオ』にはなりづらいはずだ。しかし、あえて【⑦】の方を切ったのには何か他の狙いがあるはず・・・。ハッ、まさか!?」
そう、そんな断么九になるかもしれない薄い可能性よりも・・・
ツモ【⑥】
これ! この4枚のカン【⑥】の受け入れの方が圧倒的に重要だ。しかし、本当に持ってくるかね。
「そうか! あの形だと【一四】と【①④】以外に【⑥】を引いても『ピンフ』になるのか!」
その通り。打【③】で、
「立直!!」
手牌【二三七八九②③④⑤⑥⑦南南】
試験のことを思うとダマでもいいのだが、つい曲げてしまった。ただ、その発声を聞きつけて、他の卓へ移動しかけていた奴らが戻ってくる。
「おい、さっきのあいつ、いつの間にか『リーチ』をしてるぞ!?」
「しかも、何か思っていたのと違う形じゃないか!?」
「あの田舎者、いったい何をしたんだ!?」
いつの間にか田舎者呼ばわりが定着しつつある。俺、いちおう都民やぞ。
エルフィーとかいう気の強く胸は薄いが良い脚をしたエルフが、俺の後ろでブツブツとつぶやいている。
「第一打で残した【南】がここで活きてこようとは・・・。冷静に『タンヤオ』を見切って『ピンフ』に絞った判断力・・・。『タンヤオ』はまだしも、『ピンフ』の発動条件を完璧にマスターしている冒険者がこの中にどれだけいることか・・・。」
平和を分からずにフリー雀荘行くやついねーから。
さて、ゴブリンどもは悩みながらも安牌を切って、一発目のツモ番が回ってくる。ま、こうなるよな。
「ツモ!」
手牌【二三七八九②③④⑤⑥⑦南南 ツモ一】
裏ドラ表示牌をめくるとそこには【九】があった。まったく、よくできたシナリオだな。
「メンピン即ヅモ裏で4000オール!」
謎の力で試験用ゴブリン達に向かって電撃が走り、3匹同時に黒焦げになった。試験官達が慌てて駆け寄ってくる中、会場は今日一番のざわつきを見せる。ざわついてばかりだ。
「うおおおおお、あいついったい何をしやがったんだ!!???」
「分からねえ・・・。【⑦】を2枚切るのかと思っていたのに、気が付いたら筒子は【②③④⑤⑥⑦】と綺麗に並んでいやがった・・・」
「まるで魔法だ!!!」
「和了った後に何かを詠唱していたが、発動後に詠唱するタイプの魔法もあるのか? 珍しいな・・・」
こいつら、点数計算とかどうしてるんだ。この世界ではたぶん和了に応じて電撃みたいなのが出るようだから、細かい点数とかあまり気にしないのだろうか。
「ね、ねえ、あんた!」
エルフィーとかいう気の強く胸は薄いが良い脚をしている美少女エルフが、モジモジしながら話し掛けてくる。
「い、田舎者のくせになかなかやるじゃない! 良かったらあんた、私の仲間にしてやってもいいわよ!」
お、おう。コッテコテだな。だが、俺はまだ麻雀を一局打っただけで、この世界のことには全く疎いし、協力者は遅かれ早かれ必要になるだろう。
「ああ。一次試験合格者同士、仲良くしようぜ。」
そう答えて、友好的であることを示すためにこちらから握手をする。文化圏によっては握手はしないものだし、トンペティのように未来を読んでしまうからとしない人もいるが、まぁ握手くらいなら大丈夫だろう。しかし、エルフィー個人の問題なのかエルフという種族の文化的なものなのか分からないが、握手という行為にあまり慣れていないようで、エルフィーはみるみるうちに顔を真っ赤にした。
「か、勘違いしないでよね! あんたが気になるから声を掛けたとかじゃなくて、新ダンジョンを冒険するのには『麻雀』の強い仲間が1人でも多い方がいいだろうと思っただけなんだから!」
あー、そういうスタンスね。まあいい。美少女ツンデレエルフと行動を共にするのは楽しそうだ。
「これからもよろしくな、エルフィー」
真っ直ぐに名前を呼ぶと、これまた顔を真っ赤にしている。面白い。
「よ、よろしく! ねえ、あんた名前は?」
「俺の名前は・・・」
ちょうどその時、試験官達は俺が電撃で倒したゴブリン達の片付けが終わったようで、ようやく発表があった。
「ご連絡が遅くなりました! これはえーっと・・・『タロー』様、一次試験合格でございます!」
『タロー』じゃない、『夕口一(ゆうぐち・はじめ)』だ! まぁたしかに夕口(ゆうぐち)とか珍しいにも程がある名前だし、親しい友人は『夕口一』→『タロー』とか、俺が麻雀を好きなことも知っていると『麻雀太郎』なんて呼ばれたりもするが。
「あんたタロウって言うのね! よろしくね、タロウ!」
やれやれ、タロウで覚えられちまった。まあいいか、この世界でも『麻雀太郎』と呼ばれるくらい、麻雀を打ちまくることになるのかもしれないな・・・。
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