第9話 ゴブリンの親玉はさすがに麻雀が強そうだ

【牌画について】

 ・麻雀牌は、萬子は漢数字(一~九)、筒子は丸数字(①~⑨)、索子は全角数字(1~9)、字牌はそのまま(東南西北白發中)で表示します。台詞の中などではなるべく【】でくくって表記します。

 ・ポン・カンの後の(上)(対)(下)(暗)は、上家・対面・下家から鳴いたことと暗槓を示します。

 ・チーは表記の通りです。「チー②①③」ならカン②のチー。


 以下、本編


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 前回のあらすじ:三色ゴブリンは倒したがゴブリン(黒)は強そうだ。


 ゴブリン(黒)が、俺の後ろの仲間達に向かって卓につけと促している。4人中2人が魔法AIでは味気無いと思っているのか、それとも人間3人相手でも勝てる自信があるということなのか。さて、誰に入ってもらうか。


「私が入りますわ!」


 まず、アイリが勢い良く手を挙げる。続いて、


「私にもリベンジさせて!」


 ミオが手を挙げる。雀力的にはエルフィーの方が信頼性が高いのだが、ゴブリンに一度敗北してダメージを受けていても(第6話参照)全然心が折れてないのは良いことだ。俺が読んだことがあるゴブリン退治ラノベの漫画版では、だいたい女性冒険家はゴブリンに酷い目に遭っていたものだ。元気があるのは良いことだ。よし、アイリとミオ、任せたぞ。


 そういうわけで、俺の上家にアイリが、下家にミオが入り、エルフィーとサーヤは引き続き後ろ見というポジションになった。いちおう卓の外にも警戒を払っておきたいし、そのへんはなんかこう、魔法使いと僧侶という職業を活かして魔力探知的なアレでうまくやってもらう。


 面子も変わったことで親決めからやり直すようだ。ゴブリン(黒)が麻雀卓のスタートボタンを押すと中央部の表示灯がチカチカと順番に光り、ゴブリン(黒)の前で止まった。あの黒いのが親らしい。少し嬉しそうに親の第一ツモに手を伸ばしている。なんだこの状況。ドラ表示牌は【4】がめくられている。


 配牌【一四①⑤3345567北發】


 ドラドラが面子に組み込まれている、かなり悪くない配牌だ。無難に【一】や【①】や【北】【發】を河へ並べているうちに【四】や【⑤】あたりが横に伸びてくれればいいのだが。


「ポン!」


 ゴブリン(黒)が、ミオが切った【發】を仕掛ける。こいつ、「ポン」の発声はできたんかい。「ウガウガ~」とか言うんかと思ってたわ。


 ともあれ、あの黒いのは【發】を無いただけではなく、どうやらドラ色の索子の混一色へ向かっているように見える。さすがに捨牌が露骨だ。


 ゴブリン(黒)捨牌【八五⑨⑧⑤八⑦二白】


 一方、俺の手牌はこうなっていた。


 手牌【四③④⑤334455667】

 捨牌【一發北北北①1⑧1】


 捨牌に【北】が3枚並んでしまったが、あれを手牌の中に収まる手順もあっただろうか・・・。そうなると【1】を2枚ツモ切ることもなく、索子の混一色3面待ちになっていた可能性が高い。


 仮想手牌【1133445567北北北】


 ともあれ、今の形も門前なら満貫確定・倍満まで望める好形イーシャンテンだ。萬子が入ると待ちが分かりやすい(その分、入り目が悪いとカンチャンだ)が、索子が入ると多面待ちにもなるから気を付けないといけない。


 その時、下家のミオに聴牌が入る。


 ミオ手牌【二三四五六七八②②②③④4】 ツモ【②】


「(うわー、なんか変なところ持ってきちゃった。【②】が4枚あるけどさすがにカンはしない方がいいんだよね・・・? えーっと、【②②②】と【②③④】って揃ってるのかな? あっ! じゃあこれはもういらないのかな?)」


 ミオが打【4】とする。ドラ表示牌だ。


「チー!」


 ゴブリン(黒)が仕掛ける。こいつ、やっぱり「チー」の発声もできるんかい。


 ゴブリン(黒)手牌【???????】 チー【435】 ポン(上)【發】


 しまった、今のは俺のミスだ! あの黒いのが索子のホンイツに向かっているのは明白だったのだから、あんな俺から見て4枚目のド急所のドラ表示牌【4】は絶対に鳴かせてはいけなかった。そもそもミオが切らなければ済む話なのだが、ミオの雀力では下家への絞り対応まで求めるのは難しいだろうし、ミオに本手が入っている可能性だってある。だったら、俺が索子をポンをする心構えをしていなければいけなかった。いわゆる邪魔ポンというやつだ。あの【4】ポンは死角のような鳴きだが、いちおうタンヤオドラドラのペン【7】待ちになるし、【3】ポンやドラ引きで良形満貫への変化も普通にある。


 仮想手牌その1【③④⑤3355667 ポン(下)4】

 仮想手牌その2(高め満貫)【③④⑤5567 ポン(下)3 ポン(下)4】

 仮想手牌その3(満貫3面待ち)【③④⑤3355567 ポン(下)4】


 自分の手牌だけなら鳴かずに門前リーチで充分なのだが、麻雀は1人でやるものではない。あのドラ表示牌は鳴かせてはいけない牌だった・・・。


「ツモ!」


 ゴブリン(黒)が手牌を倒す。「ツモ」の発声もできるようだ。


 ゴブリン(黒)手牌【1189西西西 チー435 ポン(上)發】 ツモ【7】


 發ホンイツドラ1で4000オールだ。4000オールに相当する電流が俺たちに向かってきてダメージを受ける。痛い痛い痛い痛い痛い。俺はスーパー銭湯の電気風呂だって苦手で入らないくらいなのに。普通のゴブリンはこれを3発喰らったら絶命するということだ。そんなもん気軽に人体に流すなよ。なんだよこの世界、ふざけるな。俺のような一般人のHPはいったいどれくらいなんだよ! 25000点まで大丈夫なのか? ステータス画面が見られないから分からねえよ。普通こういうのって自分のステータスを見られたりステータスをイジれたり特別なスキルを最初に貰ったりできるもんだろ!? 畜生! ゴブリンの野郎、許さねえ!


 麻雀をやってればこんなことはいくらでもあるとは言え、この世界に来てから初めてのダメージはさすがにちょっとショックだった。


「タロウ、大丈夫!?」

「あ、ああ、なんとか・・・。」


 エルフィーが心配して声を掛けてきた。そうだ、俺は麻雀が取り柄でこのパーティーに入っているんだ。仲間を不安にさせてはいけない。


「アイリとミオは大丈夫か・・・?」

「ええ、私はまだ大丈夫ですわ!」

「ミオも回復してもらってるし、さっき何発も食らったのに比べれば全然大丈夫だよ!」


 俺が来る前に何発も食らってたのか・・・。少し引いた。なんにせよ、ミオがどれくらい丈夫な身体なのかは分からないが、ゴブリンのように12000ぽっちということはなく、きっと25000くらいはありそうな感じだ。

 そして、アイリもさすが女騎士だ、電撃の一発や二発で怯むようなヤワな身体ではないか。頼もしい限りだ。


 ゴブリン(黒)は卓の隅に100点棒を置いて1本場を示している。準備万端か。次局の配牌を開く前に、俺は大きく深呼吸をして心を落ち着ける。そうすると、アツくなりかけていた頭も働いてきた。


 気持ちが落ち着くと、余計なことを考える余裕もできる。余計なこととは、さっきのゴブリン(黒)の発声のことだ。ゴブリンってのは人語を発することはできないのかと思っていたが、どうやら麻雀用語だけは言えるようで、「ポン」と「チー」と「ツモ」の発声はできていた。ということは、だ。「ポ」と「ン」と「チ」と「イ」と「ツ」と「モ」の6語を喋れるのだから、それを並び替えた「チンポ」と「イチモツ」も喋ろうとすれば喋れるということになる。世紀の大発見だ。性器なだけにね。

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九蓮宝燈を和了ったら本当に死んだけど異世界に転生したので麻雀でダンジョンを攻略するぞ いのけん @inoken0315

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