第8話 三色に2種類あるって本当ですか?

【牌画について】

 ・麻雀牌は、萬子は漢数字(一~九)、筒子は丸数字(①~⑨)、索子は全角数字(1~9)、字牌はそのまま(東南西北白發中)で表示します。台詞の中などではなるべく【】でくくって表記します。

 ・ポン・カンの後の(上)(対)(下)(暗)は、上家・対面・下家から鳴いたことと暗槓を示します。

 ・チーは表記の通りです。「チー②①③」ならカン②のチー。


 以下、本編


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 前回のあらすじ:奥の部屋から裏メン風のゴブリン(黒)が登場だ。


 奥の部屋から出てきた中ボスっぽい風格のゴブリン(黒)が卓に着いて麻雀再開だ。さて、あいつはどんな麻雀を打つのか。東二局1本場、俺が親番だが、配牌はそこまで良くはない。ドラ表示牌も【1】で配牌にドラは無い。


 配牌【三七九③④④⑨⑨3599東發】


 少し考えて、俺は第一打に【七】を切る。すると、仲間達がざわつく。


「いきなり【七】!?」

「いったい何を狙っているんですの?」


 この配牌は手なりで面子手に仕上げるのにはかなり時間が掛かるし高くもならない。すぐに【四】や【五】をツモってくるようなら345の三色を見てもいいし、七対子にするなら数牌は真ん中から切ってしまってもいい。それに、ダブ【東】や【發】を重ねての対子手になったら打点も一気に上がって面白いじゃないか。


「ポン!」「ポン!」


 手牌【九③④④3東發 ポン(対)⑨ ポン(下)9】


 ダブ【東】や【發】が重なるよりも先に【9】と【⑨】が出たが、構わずに仕掛ける。仲間達はもちろんざわつく。


「えっ!? あれはいったいどういうことなんですか?」

「そんな!? あれじゃあもう『リーチ』をできないじゃん!?」


 たしかにリーチはできないが、この手牌で立直することになるのはたまたま七対子になった時くらいだと思っていたからなぁ。


「あれはきっと『トイトイ』を狙っているのですわ!」


 アイリはどうやら対々和のことを知っているようだ。雀力順に並べると、「エルフィー(手役を狙う意図を理解はできる)>アイリ(手役くらいは知ってる)>ミオ(初級者)>サーヤ(ド初心者)」といった感じだろうか。


「たしかに一番近いのは『トイトイ』ね・・・。だけど、『コーツ』を作るにはまず『トイツ』を作らないといけないはず・・・。あっ! まさかタロウは別な形での『サンショク』も狙っているということ・・・?」


 そう、対々和に必要な対子はこれからのツモで作れればいい。ダブ【東】と【發】と【九】のトリプル後々付けってやつだ。門前で手を進めてもかなり厳しそうな手牌の時に、出来なくてもともと・出来たらラッキーくらいの、いちかばちかの仕掛けだ。エルフィー達にはとても真似できないしあまり真似をしてほしくない、ヤケクソみたいな仕掛けだが、さあゴブリン達はどう対応してくるか。


 強気に押されると困るのはこちらだったのだが、寝起きのゴブリン(黒)は手牌はまだ眠たかったのか、それとも親の俺の仕掛けは寝起きの頭が醒めるほどだったのか、役牌や么九牌を切りづらそうにしている。俺の上家のゴブリン(青)は完全に怯えきっており、おそらく手を崩して俺の安牌やチャンタ仕掛けに見える俺に鳴かれない4~6の数牌しか切ってこない。ゴブリンにも恐怖という感覚はあるようだ。


 そうして本来の真っ直ぐな手組みが行えなくなったゴブリン達がまごまごしている間に、俺はダブ【東】と【九】をツモり、最終形が見えてきた。12巡目にはもう1枚【九】をツモる。


「やっぱり! あれは『サンショクドーコー』よ!!!」


 エルフィーが最初に気付いたが、ここまで来るとさすがにアイリでも気付く。


「そういえば、『サンショク』には2種類あると私も聞いたことがありますわ・・・。」


「『サンショク』が2種類? 123とか234とかもっとたくさんあるじゃん?」


 ミオが実に初心者らしい良い反応を返すので、エルフィーお姉さんが優しく教えてくれる。


「123とか234とかの『サンショク』は、正式名称は『サンショクドージュン』と呼ぶと昔聞いたことがあるわ。それとは別に、111や222のように同じ牌を揃えた形の『サンショクドーコー』というのもあるそうなの。」

「へー、そうなんだ・・・。全然知らなかったじゃん・・・。」

「知りませんでした・・・スゴイですね・・・。」


 素直な反応を返すミオとサーヤに、エルフィーお姉さんもご満悦だ。解説を続ける。


「『ドージュン』のあまりの人気に押されて、『ドーコー』の方はもはや文化として失われつつあり幻のような存在になっていたのだけれど、まさかタロウは同じ『サンショク』であることを忘れずに可能性を追っていたなんてね・・・。悔しいけれどやっぱり天才だわ・・・。」


 序盤から怯えて安牌ばかり切り続けており切れる牌がほとんど無くなっていた上家のゴブリン(青)が、これは大丈夫だろうとばかりにツモ切ってきた【④】で俺の和了となる。


 手牌【九九九④④東東 ポン(対)⑨ ポン(下)9】 ロン【④】


「ロン! トイトイ三色同刻で12000の1本場!」


 ゴブリン(青)に向かって電流が走って吹き飛ばして消滅した。現れたゴールドは12000だったので、どうやら和了点に応じてではなくゴブリンのHPによるもののようだ。ゴブリンのHPは12000なのか。RPG感覚だとすげー高いけど、麻雀感覚だと親満一撃で飛んでしまう心許ないものだ。あの黒いのはこれよりも高いのだろうか。


 そんなことを思っていたら、対面のゴブリン(黒)はニヤニヤとした表情で自分の手牌を倒して見せてくる。


 ゴブリン(黒)手牌【四五六⑤⑥11123456】


 こいつ!? 俺の和了に喜んでいた仲間達だが、ゴブリン(黒)の手牌に気付いてざわつく。


「見てください! あのゴブリン(黒)が手牌を倒しています!」

「あっ! しかも、同じ【④】で『サンショク』になってるじゃん!」

「本当ですわ・・・。自分も和了れていたとでも言っているつもりなのかしら・・・。」

「【④】なら『サンショク』だし、『ピンフ』に『ドラ3』もある・・・。いったいどれほどの強さを秘めているのか、実に不気味な奴ね・・・。」


 たしかに対面のゴブリン(黒)は俺の仕掛けに対してベタオリというまでではなく、生牌の【中】やドラそばの【2】などを微妙に押しているのには気付いていたが、まさかそんなテンパイ形になっているとは・・・。平和三色ドラ3なら跳満だ。仲間のゴブリンを飛ばしてしまうから倒さなかった(もしくはダブロン無しで上家取り)のだが、自分も同じ牌で同じ点数を和了れていた、むしろ子でも12000点なのだから自分は同等以上の強さだ、とでも言っているつもりなのだろうか・・・。

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