第三話_パスタが食べたい

ここのところ、起床時間は朝5時、自然に目が開きぬっくりとベットから抜け出す。

もともと、極端な夜型だった僕は、7時間の時差が功をなし、大胆な朝方になった。


顔をゆっくり洗って、メガネを外しコンタクトを入れる。

朝ごはんの準備をしながらタバコをふかす。

単調な朝のルーティンをこなして、朝ご飯と共に3時間ほど勉強する。


ブルガリア語は難しい。読むことは簡単なのだが、文法がややこしい。

そこまで流暢に話せるようになりたいわけではない僕は、ノートに単語をできるだけ多く殴り書き、覚えた気になってペンをおく。


名だけの勉強を終えたあとは爆音で大瀧詠一の『君は天然色』を流し。

この国への反骨心をこめて音痴なりに一生懸命歌う。

いつか上に住まう生粋のブルガリアンに怒られてしまいそうだが。

その時までには、『宗教上の理由です』とブルガリア語で言い訳できるようにしておこう。


午後2時には決まってお腹がすく、デリバリーを頼むほどお金に余裕はない僕は、お腹がなるのを合図に早々と着替え、近所のスーパーへ向かう。


ファンタジア。このスーパーの名前だ。

このファンタジア。幻想とかそんな意味なのだろうか。確かにホテルの近くのスーパーよりは品数は幻想的に多いのかもしれないが、日本人の僕にとっては、店員の不親切でぶっきらぼうな態度の方がより幻想的に見える。


パンの袋詰めを3袋と水を15リットル、必要最低限のものだけをカゴに入れ。


добър ден!


会計は6レバほど。物価が安いのがこの国の唯一の救いだ。

パンを手さげバックに詰め水を片手でもつ。身体半分に15リットルの重さがグッとかかるが、よろけては、屈強なブルガリアンに弱みを見せてしまう。

大きな人通りの多い道で、重くないフリをつきとうし、細い道で休憩する。

日差しの暑さとねじ曲がったプライドが体力を削り、やっとのことで家に帰り着いた。


水を喉に流し込み、パンにジャムを二塗りしてほうばる。

2分後にまた腹がなった。『パスタが食べたい』

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