第十二話_変化
前期の授業が終わり、ファイナルセッションと呼ばれるテスト期間を過ごしている今日この頃。
授業がまったくないから、テストの日までは、自由に一日一日を使える。もちろん、遊んでいる余裕のない僕は、昼頃に起きて、支度を済ませ、冷房の効いた大学の図書館で音楽に揺れながら19時ごろまで勉強し、相変わらず犬のうるさい通りのひっそりとしたアパートの半地下の一室へと帰る。帰宅後はシャワーを浴びて、タバコをふかし、音楽を5〜6曲ほど縦続けにきいて、イヤホンを外し、静かに夜の勉強を早朝まで続ける。そんな毎日を送っている。
最近では、東欧で孤独だ、孤独だといっていた僕にもいつの間にか友達ができ、十人ぐらい入れる自習室で満席でもお構いなく、ガンガン揺れながら、寝ていた授業の録画を見て今更ながらノートを取っている僕に「hi hi taku, how are you?」と自習室のガラス越しに僕を見つけた、イタリアンやジャーマンの友達たちが声をかけてくれる。僕が大学のすぐ近くに住んでいることもあり、道に出ると、誰かに会うなんてこともしょっちゅうで、道端でも「hey takuya~」。もう孤独とは程遠く、うまい具合に溶け込めている気までする。
ただ、やはり四ヶ月もたつと、人間模様が変わる。最初の頃に仲が良かった、親愛なるイタリアンたちとは、最近は至って疎遠になり、今では、クリスというとにかく優しいガッチリしたウクライナとイタリアの混血の楽天家とよくしゃべり、よく食べ、よく歩いて(時に走って)いる。彼は、イタリアから離れたくて、イタリア語から距離を置きたくてブルガリアにきたのだが、この大学の留学生は150超がイタリアンのため、なかなか、会話に英語を使う環境がないことに嫌気がさしていたらしい。そんな時にイタリア語のほんの数単語しかわからない僕が現れて、とてもラッキーだったと言っていた。僕もイタリアの文化やイタリア語をもっと学びたいので、とても理にかなった関係性に思える。
そんなクリスに50%冗談で「今年の夏は、イタリアに行こうかな」と言ったら、「ならうちにおいで」とすぐにその気になって僕がイタリアを周遊する計画までたててしまった。僕も日本の厳しい状況を鑑みて50%は本気で言ってしまったので、これは行くべきなのかなと思っているが、写真作家としての仕事が日本で何個か待っているので、どうしようかと絶賛、頭を悩ましている。
まあ、夏休みがどうなるにしろ細胞学のファイナルを落としている僕は、その再試を含めあと三個のテストを乗り越えないとならない。伸び切った髪をヘアゴムで束ねて、残り少ないほうじ茶で一服。よし、しゃんとしよう。
東欧から極東へ 古川拓 @oldcurio
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