第九話_(途中②)
ブルガリアのイースター休暇が開けて二週間ほど経った。
テストに追われる毎日。寝れない日が続いている。
僕の住まう半地下の部屋は、いつも以上に散らかっていて。ベットも丸まってかろうじて寝れるスペースだけを残して教材に埋め尽くされている。
半地下の夏は寒い。特に深夜と早朝は極寒で身震いするほどだ。電気代節約のためにダウンを着て寒さをしのぐ生活。古着屋で三万はたいて買ったこの”level7”もまさか東欧まで持ってこられた挙句、夏も着られるとは思っていなかっただろう。日中ハンガーにかけて窓際のカーテンレールに吊らされているその姿からは”彼”の果てしない疲れが感じ取れる。まるで『働き疲れた。。。』と言わんばかりの彼の背中は伸びきっていて今にでも冬に帰りたさそうだ。『お疲れ様』とクローゼットにしまってあげたい気持ちは山々なのだが、この半地下ではそうもいかない。もう少し彼に頑張ってもらう日が続きそうだ。
大学は休暇あけから対面授業を再開した。約一ヶ月ぶりに顔を合わせるグループの面々。ビザの関係で今までこの国に入国できていなかった生徒達も休暇明けから各グループに合流し、大学に通っている。
はじめましての人達。僕のグループにはベトナミーズな天才が合流した。彼は言葉通りの天才で、この世の全てを知っているのではないか?と疑うほどに勉強ができる。スポーツも中々で、一緒にバスケをした時も彼の俊敏さに驚かされた。
今までジャーマンたちに囲まれていたグループでの授業、新たなアジア人の参上になぜだか不思議と心が軽くなった。同胞意識とでも言うのか、『みんな違ってみんな良い』の対偶は取れないのだと今更に気づいた。そんな感覚だった。
そのベトナミーズな彼をスポーツの授業終わり更衣室で見つけて、声をかけてことがある。
何を思ったか日本語で「疲れたね」ともちろんのこと彼は無反応だった。同じ肌の色、似たような顔立ち、同じ背丈で、お互い視力が低い。そんな彼に自分の母国語が通じないこと。少しショックだった。
やはり僕は果てしなく遠くの極東から来たエイリアンなのだと。改めて痛感した。
イタリアンな友達たちもイタリアからようやく帰ってきて
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