ゼロ・コーネルはまさにハードボイルド・ヒーロー

  • ★★★ Excellent!!!

 この作品は以前から追いかけていました。まずは完結おめでとうございます。
 個人的には、この作品は優れたハードボイルドであると思って読んでいました。物語が、主人公ゼロ・コーネルの一人称で進行するから……だけではありません。抑制のきいた冷静な語り口や、自身も含めて人間の心情に踏み込みすぎないところが、非常にハードボイルドとしてよくできています。作者は、ハードボイルドの何たるかをよく理解していらっしゃるのだなと、個人的に思いました。
 それから、主人公の造形も非常にハードボイルド・ヒーローらしい! フィリップ・マーロウとコンチネンタル・オプを混ぜ合わせて、ビジネスマンとしての礼儀正しさを加えたような、完璧ともいえる造形で、隙がない。余計な減らず口が一切なく、それでいて言葉の切れ味は鋭い。また、あらゆる相手に対して(依頼人に対しても)油断なく仕事を進めるというところもよいですね。まさにダシール・ハメットが述べたところの“夢の男”というべきで、たいへんかっこよくて素晴らしいと思いました。こういうハードボイルド・ヒーローを自分でも創造できたらどんなに素晴らしいだろうかと思います。
 また、舞台や道具立てが、またいかにもハードボイルドらしくて、個人的にそこも気に入りました。複数のステークホルダーが対立している地方都市に、一匹狼のプロが切り込んで、状況をかき回していくという流れは、まさに『血の収穫』を思わせるようなところがあって、読んでいてとても楽しかった。キャラクター造形も、往年のハードボイルドに出てくるような感じで、個人的には馴染み深く感じられ、またこれも楽しかった部分でした。
 レトロフューチャー的な設定も含めて、とても面白いSFハードボイルドだったと思います。次回作もとても楽しみにしています。

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