凄絶、残酷、恐怖の戦争オペラ

  • ★★★ Excellent!!!

 つい三日ほど前に読みはじめて、あまりに面白いので一気読みしてしまいました。長大な大河物語ですが、淡々としながらも軽妙な語り口と、緻密な設定の裏付けを感じさせる説得力あふれる世界の描写でぐいぐいと引き込まれます。魔法や魔物が存在するファンタジックな世界と、大砲や銃器が違和感なく共存しているのも面白いですね。個人的には、鉄砲おたくということもあって、作中の銃器の進化を見るのが面白い(ランマルカ軍の機関銃に弾帯式のものがあるというのがちょっと気になるところ)。あと、すごく下品な下ネタ表現がポンポン出てくるのが何だか笑える。極めつけにマッチョな世界観で生きている人たちの物語なので、当然っちゃ当然ですが、それにしても笑えてしまう。
 しかし、何よりも本作の最大の魅力は、とてつもないスケールで展開される恐るべき戦争オペラであること。主人公・ベルリクは休むことなく戦争に次ぐ戦争を繰り広げ、多くの人々を巻き込んで国家を建設し、さらにそれを土台にしてさらに戦争を起こし、挙げ句“戦争の輸出”すらはじめる。そして、戦争を前提とした国作りを推し進めていく。とにかく、そのスケール感に圧倒されてしまいます。戦争を起こす、戦争をするとはいかなることか、それがどんな大事業であるか、と感じ入らずにはいられなくなる。また、主人公をはじめ、主だった登場人物(国家指導者から一介の兵士、市民に至るまで)はみな戦争の魔に魅入られた者ばかり。戦争を統制する国際的ルールはほとんど存在せず、国際社会を支配するのは苛烈な力の論理のみなので、指導者たちは弱味など見せていられず、ひたすら戦いを繰り広げるほかない。戦争をしたくないと思っても、否応なく戦争に飲み込まれ、変貌していく人々……これまた、戦争というものの途方もなさ、その影響力の凄まじさを感じずにはいられないことです。それに加えて、急激な進化を遂げつつあるテクノロジーがもたらす、恐るべき新兵器、新戦術の数々(魔法が存在するため、ロボット兵器や生体強化兵士すらも登場してしまう、というのがまた恐ろしい)……それらが一体となったとき、物語世界に顕現するもの。それは、膨大な人間を文字通りに挽き肉へと噛み砕いて飲み込み、それを燃料として駆動し、さらに多くの人々を飲み込み噛み砕いて、飽くことなく駆動し続ける機械仕掛けの戦争の神、総力戦機構に他なりません。その恐ろしさたるや、読み進めるうちに、くらくらと目眩がしそうなほどです。
 そして、何よりも恐ろしいのは、国際的ルールもなく、普遍的人権の概念も存在しないであろう世界で展開される戦争が、どれほど暴力的になるかということです。ベルリクの構想する永続戦争システム、そしてその原動力たる妖精というかたちで顕現する、その究極の暴力、冒涜の有り様は、もはやホラーの領域に踏み込んでいます。人を人とも思わぬ、という言葉は、かくも恐ろしいものであったか……と思わずにはいられません。そう、相手を人と思わなければ、泣き叫ぶ捕虜を切り刻んで肉団子スープにしたり、さらにおぞましい、言い表すこともためらわれる行為も実行できてしまうし、それを禁止するルールがなければ、それらの蛮行は(道義的には許されなくとも)罰されることはない、ということになってしまうのです。何たる無惨、何たる残酷。そして、最も恐ろしいのは、それが我々の現実と地続きの話でもある、ということなのです。そう、ベルリクはおとぎ話の魔王ではない。我々のすぐ隣に、いや我々の中にいるのです……。

 おお、この恐るべき悪夢に終わりはあるのか? 帝国連邦は、その総統たるベルリク=カラバザル・クルツァラザツク・レスリャジンは、世界を、そして我々を、どこに導くのか? 血塗られた悪魔の神、総力戦機構の求めるままに、屍山血河を築き、多くの国を、民族を滅ぼした、その先にある光景とは? ──それが、一読者として、最も気になるところであります。

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