第14話
土曜日の午前9時から、レアチーズケーキ作りをスタートした。今回のケーキは冷やす時間が必要だから、いつもより時間がかかる。テキパキ進めないと、3時に間にあわなくなってしまう。
「よし、まずは普通にレアチーズを作るぞ」
土台のビスケットは、封を切って必要量をパッケージに残し、輪ゴムで口をして、めん棒で叩いていく。
レシピだとジップロックに入れると書いてあったりするけど、耐久性がなくてすぐに破れてしまう。パッケージのビニールの方が強いし、ゴミも最小限で済むので、理にかなっている。
ただ、はじめて思いついてやったときは、天才的発想だ! とテンションが上がってしまい、封を切らずにすへで砕いてしまった。あれ、分量はかってなくない? と思ったときには、時すでに遅し。
極厚の土台にするか、粉々のビスケットを食べるか迷った末、後者を選んだ。あのときは、えさをついばむ小鳥になった気分だった。
砕いたビスケットと溶かしバターを混ぜてしっとりとさせ、型の底に敷きつめていく。イメージのもととなったキャンドルと同じ、ハート型だ。完成したときに崩れないように、しっかりと押し固める。
次はレアチーズの生地を作る。
クリームチーズはレシピ通りにいくと常温に戻すのだけど、冬だと短時間では済まない。溶かしすぎないように注意しながら、レンジで温めていく。ホイッパーがすっと入るくらいがベストだ。
うーん、何かわたしって意外とレシピ通りじゃないことやってるな。これでいいのだろうか……。何となく悪いことをしているような気分になる。
なめらかに練ったクリームチーズに、グラニュー糖を加えてすり混ぜていく。さらに、ヨーグルト、ゼラチンを煮溶かした牛乳、生クリーム、レモン汁を順番に加え、その都度よく混ぜていく。ダマがなくなったら、さっき作ったビスケットの土台に流しこんで冷やし固めるだけだ。
「レアチーズは冷蔵庫にしまっておいて……次はフルーツの準備だ」
今日使うのは、キウイといちごとみかん。みかんは皮を綺麗にむくために、沸騰したお湯で30秒ほど煮て、すぐに氷水で冷やす。そうすると、普通は白く残る繊維も簡単にむけるのだ。フルーツはすべて薄い輪切りにしていく。
次はゼリーの準備。完成品を持ち歩くことも考慮して、ゼラチンではなく、常温で固まる「アガー」を使う。ゼラチンよりも透明度が高いゼリーになるし、匂いも気にならないので、わたしはアガーの方が好きだ。40度くらいで固まりはじめるから、ちょっと放っておいた隙に鍋の中で固まっちゃうこともあるけど。
フルーツとゼリーの準備は完了。あとは、これをレアチーズにトッピングしていく。
「固まったかな」
冷蔵庫を開け、レアチーズの表面をちょんとさわってみる。よし、固まってるみたい。
レアチーズの表面に輪切りにしたフルーツをバランスよく並べていく。みかんとキウイは大きくて、全部丸のままのせてしまうと変化がないので、半分にしたり、ハートの曲線に沿って切ったりしてみる。
フルーツをのせ終わったら、そっとゼリーを流しこむ。表面にできた気泡を竹串でつぶしながら、思わず笑みがこぼれた。
シトラスのかおりのキャンドルを参考にしたケーキ……可愛くて大成功かもしれない。
月曜日、藍ちゃんにもお礼を言わなきゃ。
今回、さとうさんには切らずにホールのままであげたいので、自分の分は別でガラスの器に作ってみたのだけど、本当にキャンドルをそのまま拡大したみたいな出来ばえだ。藍ちゃんにはこっちの写真を見せよう。
また冷蔵庫で冷やし固める。お菓子作りは、固める時間とか、寝かせる時間とか、待っている時間の方が意外と長かったりする。
ホールの方は型から抜かないといけないから、よりしっかりと固めたい。
あれ、そういえば……。
「さとうさんにホールであげるのははじめてだ」
しかも……ハートだし!
キャンドルがハート型だったから何も考えずにそのまま作っちゃった……バレンタインでもないのに……!
そうだ、丸いケーキに水玉模様だと、丸に丸でつまんないからってことにしとこう。いや、そもそもハートだとか気にしないか、普通。
ハート型なだけで恥ずかしい気がしてくる自分が恥ずかしい。
時計を見ると、11時半。2時間は冷やしておける。でもそのあと、型を抜いてラッピングするとなると、いつもよりバタバタしそうだ。
「今日の服早めに決めておこ」
またさとうさんに「かわいい」って言われたい……なんて、恥ずかしいのにそう思ってしまう。
さとうとミントのお菓子な関係 桃本もも @momomomo1001
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