番外編:楽園に記憶を残す
【41.生き死にを楽しみたいものですね】の後日、リント視点のお話です。
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明るく晴れ渡った
正確には砂ではなく、沖合から運ばれてきた、
窓辺の先に見える海は、穏やかに透きとおり、遠く
「やはり、南国の海は良いですね。カラヴィナでは海水浴の余裕などなかったですから、またみんなで楽しみましょう」
「それじゃあ、まあ、水着はベルグとお兄様もおそろいかしらね。ルルちーもどうかしら?」
「やぶさかではありませんが……その略称には、まだ慣れませんわ」
マリネシア皇国の宮殿、いつぞやの
女三人の摂取栄養量としては、かなり過剰だが、表層脂肪の蓄積にも意味があるので
全生命の
三人とも明るく華やかな色使いのマリネシア民族衣装を着て、黒髪に浅黒い肌のルシェルティは元より、ジゼルもユッティも良く似合っていた。
二人に比べるとルシェルティは、年齢も背丈もかなり小さいが、その分を性格と態度が
「皆さまが御来訪されるとうかがって、私からも
ルシェルティが、口ぶりとは裏腹に、浮き立った笑顔を見せた。
「そう言われれば、ルシェルティ様もフェルネラントでは、あまりマリリと言い争いをなされていませんでしたね」
「さすがに私も、それくらいの空気は読みますわ」
「空気ねえ……この際、読まずに聞いちゃうけど、あの赤毛の
「
「口が達者な、という意味です」
正確には舌の技術だが、いぶかしげなルシェルティを、ジゼルが
記録映像は、イスハバート王国軍に正式移管されたメルデキントだけでなく、実のところリベルギントとシュトレムキントにも複製保管している。
ジゼルやユッティから、たまに要請があり、貴重な学習資料として活用していた。
「まあ、お互い、利用価値のある相手に情が移ってしまったのは認めますが……
「達観してるわねえ。それじゃあ、ぶっちゃけついでに、マリネシアって近親婚もありなのかしら? 皇族だから第二夫人とかは問題ないとして、ルルちーの野望って、現実的にどうなのさ?」
「先生」
たしなめるようでいて、ジゼルも、目の色がユッティと変わらない。
ルシェルティもさる者で、少しだけ
「私もこの際ぶっちゃけますと、愛情と子供、それに付随する行為が継続的にいただければ、婚姻の形式にこだわるつもりはありませんわ。やはり法的には、いささか難しい面がありますの」
「皇帝に法律のぎりぎりを攻めさせようってわけね。マリリちゃんがいても良いなら、あたし達も安心して応援できるわ!」
「公明正大な皇妃の存在は、皇国の安定に不可欠ですわ。それに、その……下品で粗暴な
「ありがとうございます、ルシェルティ様。マリリも、年齢相応に気の置けないルシェルティ様との御関係は、本心では喜んでいますよ。これからも、仲良くしてあげて下さいませ」
「こ、こちらこそ、ですわ」
「よっし! それじゃあみんなで協力して、お兄様を追い込むってことで同盟成立ね! ネーさんもしばらくここに留まるって言ってたし、じっくり作戦を練ろうじゃないの!」
威勢良く立ち上がったユッティの頭を、ちょうど後ろに現れたナドルシャーンが、それなりに遠慮なく押さえつけた。
「宮殿で皇帝を
ナドルシャーンは、ルシェルティと同じ長い黒髪と浅黒い肌を、きっちりとした
「あ、いたた、けっこう痛いわ、お兄様!」
「ごきげんよう、お兄様! 今日も素敵ですわ!」
「お邪魔しております、お兄様」
「なんだ? 身に覚えのない娘が増えてるな」
ナドルシャーンの隣に、頭髪も
記憶情報を照合すれば、確かに、ジゼルとはナドルシャーンの
プリルヴィットの
「私の呼称については、また議論の場を設けるとして……そろっているなら都合が良い。少し時間をもらおう。ついて来い」
ナドルシャーンとプリルヴィットが並んで歩き出し、ルシェルティが後ろに続いた。
三人の様子に、わずかに顔を見合わせてから、ジゼルとユッティも従った。リントが迷惑そうにあくびをしてから、渋々と最後について行く。
全員で宮殿を出て、海岸に足を運んだ。
窓辺で見えた砂浜からやや離れて、波打ち際で遊んでいる大勢の子供が見えた。背格好から、一人だけ大人が混じっているようだ。
「相変わらず、フェルネラント人は無理な
プリルヴィットが毛のない頭をかく。
子供に混じって遊んでいるのは、ひょろりと背の高い男だった。
肉付きの薄い身体で、子供に飛びかかられて、派手に転んで水しぶきを上げた。
ユッティが、呆然と砂浜を一歩、踏む。
男がユッティに気がついて、やはり呆然と目を丸くした。
「ユッティさん……? あれ? ユッティさんまで、もう死んじゃったんですか? こっちに来るの、早かったですね」
「いや……確かにここ、楽園っぽいけどさ……。あたしは多分、死んでないわ。あんたの方が、死に損なってるのよ……きっと」
ユッティの力ない声に、エトヴァルトが波間に座り込んだまま、少し考える顔になった。
「やっぱり、そうなんですかね……?
ジゼルが適当な
計十二人を相手に、二刀流のジゼルが、右に左に軽快にさばく。子供達のはしゃいだ声が、少しずつ離れていった。
ナドルシャーンとルシェルティが、笑った顔を見合わせて、ジゼルの後を追う。
プリルヴィットは、医者としてこの状態を放置するのも迷ったらしく、砂浜に腰を降ろして見当違いの方向を見た。
リントがその横で、にゃあ、と鳴いた。
人間はなぜ好んで水に濡れようとするのか理解不能だ、と、
ちょうどユッティが、エトヴァルトにぶつかるように抱きついて、二人そろって盛大な水しぶきを波打ち際に上げたところだった。
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ちょっと迷いましたが、エピローグ的なお話を追加しました。
この世界でも、ユッティに幸せになって欲しかったんです……。
これで本当に完結です。
読んで下さった皆さま、本当にありがとうございました!!
次回作でもお会いできたら嬉しいです!
もっと猫の手も借りる!! 世界大戦2 〜黒髪の剣術娘、奮闘する! 戦略、戦術、戦闘術で、世界をひっくり返します〜 司之々 @shi-nono
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