第318話 舌打ち。

 大剣が振り下ろされたアレンが居たところでは、大きな砂埃が上がって……。直径三メートルほどのクレーターが出来ていた。


 後から加わった三体のリドールを含めた四体のリドールはいまだに砂埃の上がっている……アレンが立っていた場所へ視線を向ける。


『標的個体特徴に合致する者……安否確認開始』


「いきなりどうしたの? ……って言葉が通じないか?」


 いつの間にかリドールの背後に立っていたアレンが何食わぬ顔で言った。


 リドール達は勢いよく、振り返る。


『標的個体特徴に合致する者、発見。標的危険度上方修正……一部リミッターの解除を開始』


『マテ、オマエラハ……ナンナンダ?』


『リミッター解除を完了。標的個体特徴に合致する者の排除行動を再開します』


「やれやれ……俺の言葉聞いてくれないのか」


 アレンがやれやれと言った感じで呟いているうちに、四体のリドールがアレンの周りを囲んでいた。


 ちなみにリドール達はどこかで拾ったのか、備えつけられていたのか剣や槍、ナイフと言った武器を持っていた。


「……また変な魔導具だな。古代遺跡の発掘品ってところか……壊したらもったいないだろうか? しかし、メイド服を着ているが誰の趣味だよ」


 アレンはブツブツと呟きながらもサイドバックに手を突っ込んだ。


 そして、蛛幻の短剣の方を取り出し、右手に待って構える。


 リドール達には戦闘に関する知識が備わっているのか、リドールはアレンの死角に居た真後ろ、右、左……三体のリドールが一斉に襲い掛かる。


 更には何やら魔法を使っているか動く速度が、人間のそれを軽く超えていた。


 ただ、アレンは読んでいたのか、それとも感じ取っていたのか……。


 アレンの眼球が右へとギョロっと動いた。


 右に体を反転、移動して右に居た人形と向き合った。


 右に居たリドールが振り下ろしてきた剣をアレンは紙一重のところで躱し……そのまま、リドールの懐に入ると顔面を左手でガシッと掴んだ。


 握力と腕力でリドールを振り上げ、迫ってきていた真後ろ、左斜め後ろのリドールの方へと投げ飛ばした。


 三体のリドールが吹き飛ばされている中で……正面にいたリドールがアレンへと襲い掛かる。


「数が多いね」


 リドール達はそれぞれの視覚が繋がっているのか、意識を共有するようにできているか、休まずに連携のとれた攻撃を仕掛けてきていた。


 ……約一年半前に戦った鎧兵が四体居る感じか?


 そうか、俺が国外追放されてから約一年と半年も経っているのか?


 砂漠に飛ばされてからと言うもの……時間の感覚がおかしくなってしまっているな。


 って……今はそんなことよりもだ。


 目の前の人形だろう、鎧兵ほどの力と重さはないが……小さくなった分だけ早いな。


 それに、どうやら視界が共有されているのか? それともどこか別の場所から操作する者が居る?


 前者はありえそうだが……どうやって?


 昔、魔導具を作っていた時期があったが……まったく分からん。


 古代人の魔法技術には感嘆の言葉しかないな。


 ちなみに後者は難しすぎるな。


 あの人形を操作するには人間の反応速度では追いつけるか?


 難しいだろう。


 てか、あの人形を操作できるほどの反応速度を持っているなら、人形など操作せずに普通に戦った方が強そうだ。


 ただ戦いに意志のようなものを感じるんだけど……気のせい?


 いや、あの鎧兵は何かしゃべっていた気がするし……もしかして、人形達も人間みたいにしゃべったり出来るのかな?


 だったら、面白いが。


 話せるか話せないかは後で捕縛して聞けばいい。今の俺は赤を……蛛幻を持っているから問題なくできるだろう。


 人形達を見ていて一つ気になることがある。


 鎧兵は、巨大な魔晶石が埋め込まれていて動いていた。


 では、あの人形達の魔晶石はどこだ?


 首輪についている魔晶石では小さすぎるだろうし。


 アレだけの出力を賄うために必要な大きな魔晶石を持っているようには見えないが?


 ……まさか。


 アレンが考えを巡らせていると、離れたところで囲んでいた兵士達はリドール相手に苦戦しているように見えたのだろう、歓声が上がっていた。


 アレンは周りの声など気にすることなくリドール達を見据えて、眉間にしわを寄せた。


 そして、蛛幻の短剣をサイドバックにしまうと、赤の柄頭に手を乗せる。


 ちょうどその時、アレンの正面から人形が襲ってきていた。


「……シッ」


 アレンがダンッと地面を強く蹴った。


 その瞬間、アレンの姿が消えて正面から襲ってきていたリドールの左腕が切り裂かれ……彼方へと飛んでいった。


 いつの間にか、姿を現していたアレンが切り裂かれたリドールの左腕を拾い上げて呟く。


「何とか切り裂けたが……固い作りの人形だな。硬度は鎧兵並か?」


 ただ、その時……唐突に悲鳴が上がったのだ。


 アレンは悲鳴が上がった方へとギョロッと視線を向けた。しかし、盾を持っている兵士達が壁になってみることはできなかった。


「ちっ」


 アレンが珍しく不快に表情を歪めて舌打ちをした。


 そして、向かってきていた人形を軽くいなし、躱して……悲鳴が聞こえてきた方へと走った。


 もちろん、アレンの接近を阻むように兵士達が盾を構え、槍を構えてきたが……アレンは殴り飛ばして強引に進んだ。


 そして、アレンは目にすることになる……ボロ服を着ている男女が悶え苦しんでいる姿を。


悲報、ストックゼロ。

次……更新できるか分かりません。出来たら、フォローしといてくれて、新作の方を読んで待ってくれていると嬉しいです。

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赤き龍の英雄物語 追放された英雄さんが隠居生活始めました 太陽 @kureha1

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