第9話
全ての手柄を俺に……。
#人喰いのひと仔さん。
ーーーーーー
「医療ミス?!」
「えぇ。以前、山田先生が診られた患者様が、その様に訴えているのです。」
看護師が、そのカルテとレントゲン写真を見せてきた。
その患者は、交通事故に合い、家の病院へ搬送されてきた。
確かに腰椎を骨折した。
しかし、痛みが酷い事から、たまたまうちの病院が休診日だった為、別の病院へ行ってレントゲンを撮り直させられたところ、腰椎の骨折数が俺が見た時より多く折れていたと診断され、さらには、どうやら股関節も骨折していたらしい。
言い訳になってしまうが、腰のレントゲンはアングルによって本当に診え辛い箇所なのだ。
しかも、よりによって受付の医療事務員がパニック気味で再来してきたその患者に、
「医療ミスというものは、患者さんの思い込みや言いがかりでもあるんですよ!」
と、言い放ってしまったらしい。
その患者は、痛みとその言葉にショックを受けて、そのまま院内で倒れてしまい、病院のベッドが空いていなかった為、緊急診療室のベッドに寝かされているらしい。
患者は、その後、意識を取り戻したが、
「私の身体を返して。」
「医療ミスされたんです。他の病院でレントゲン撮ったら言われてた腰椎の骨折数より三本多く……股関節も骨折してたんです。」
「助けて下さい……でも……山田先生だけは辞めてください。」
と、意識散乱の虚ろな状態で、泣きながらうわ言の様に呟いていたらしい。
しかも、その日俺は休みで整形外科の担当員が不在だった事もあり、レントゲンだけなら、と脳神経外科の医者が対応し、案の定、腰椎は他の病院での診察結果と同じだった。
しかも、どうやら患者が倒れて意識がないと思っていた看護達が、
「整形外科の山田先生って適当って噂あるもんね。」
「カルテもちゃんと診ないでさ。診る、というより、患者さんをさばいてるって感じらしいよ。」
「まあ、ウチラもだけど医療ってビジネスとかさ。感覚狂ってくるよね。」
「そうそう。医者からしたら自分の座席確保か出世の為って感じがもっと強まりそうだもんね。」
と、話していたのを、その患者は聞いていたらしい。
目が覚めて更にパニックになった患者に対し、脳神経外科の医者が、
「腰椎や股関節のレントゲンはアングルによって診え辛く難しい箇所にはなります。」と、フォローし、
「他の病院への通院を希望される場合は紹介状が必要となります。
僕は脳神経外科医ですが、精神的肉体的のご負担を患者様に掛けてしまった事は事実ですので、僕から紹介状を書きましょう。そしたら山田先生にも患者様が顔をもう合わせなくても大丈夫ですから。」と、対応したと言うのだ。
これにより、脳神経外科医の株は上がり、俺は、病院内で肩身が狭くなった。
ふざけるな!
看護師や医療事務員や、他の医師達の白い目、冷たい目、あざ笑ってくる目。
くそっ!俺の出世はどうなる?!
しかも、その患者が杖での生活になった事から、障害者手帳の申請で再来してきた。
障害者手帳は、別の病院へ異動していても最初に診察をした病院の担当員でないと、申請書類の作戦が出来ないのだ。
その患者は、俺の目を見ようともしない。
俺だって目を合わせづらかった。
障害者手帳の申請には、障害者として該当するかの検査が必要となる。
筋力チェックの結果は、かなり筋力が低下していた為、障害者手帳の項目には当てはまっていた。
しかし、俺はその患者の申請書類には「不可」と、書いた。
当たり前だろ?!
この患者のせいで、俺は出世だけじゃない。
病院で肩身が狭くなったんだ。
俺は書類に申請不可の理由として、「筋力は確かに弱まっている。しかしそれ以上に鬱の傾向が強く診られる為、整形外科の身体障害者、というより、精神疾患での申請を再度してもらう事を希望する。」
と、書いてやった。
どうせ市役所の人間も適当なんだ。
中身は、市役所役員しか見られないはず。
ーーーーーー
目の前には、白髪の子供が、いる。
「貴方は医師として最低だと、思います。
たったひとつのミスだって患者様にとっては一生ものなのですよ?
同じ医師として恥ずかしいですし、医師と名乗ってほしくないですね。」
「お前だって子供で、しかも無免許の都市伝説の医師だろーが。」
「少なくとも、貴方よりかは医師としての誇りや誠意は持ち合わせています。」
「お子様はいーねー。大人になるとな、そうは、いかねぇんだよ。出世、医療はビジネスなんだよ。」
「なら、私は子供で都市伝説の無免許医師のままでいいです。
それでどの様な手術を希望ですか?
まさかその腐った考え方のご自身の脳の手術でも希望されるのですか?」
「クソガキが……。言うねぇ。ちげぇんだわ。その患者の腰と足を本当に再起不能にして欲しいんだ。」
「は?!」
「あの患者よ。またうちの病院へ来たらしいんだ。どうやら市役所の奴が、その患者に書面を返しちまって、中身を患者に読まれたんだ。
それで裁判沙汰にはしない、と言っているらしいが、
“山田先生は、医師として間違っているから解雇した方がいい”と、だけ話て帰っていったらしいんだがな。」
「その患者様の言うとおりです。」
カシャッ
「なぜ写真を?」
「無免許医師。子供。都市伝説。その証拠さ。
SNSで拡散されたくなかったり、むしろ俺から警察にお前を身元保証だって事で連絡する事も連れて行く事も出来るんだぜ?
それはお前も困るだろ?
それに、無免許医師だから出世や地位はいらなくても……金は必要だろ?
その患者の住所がこの紙に書いてある。
バレないように上手くヤッてくれよ。
今は杖の生活で仕事も出来ていないらしい。
障害者だから生活も不自由で、更に金銭的にも、追い詰められて苦しんで生き続ければいい。
本当は殺してほしいくらいだが、その方があの患者は、苦しむだろ?」
「死よりも辛い人生の選択を、と?」
「あぁ。」
「残念ながら……それは貴方だ!」
俺は、気が付いたら足の力が抜けていた。
そして、声も出せないくらいの激しい痛みが腰に響いてきた。
どうやら俺は、ほんの一瞬のスキに、腰に針を刺されて抜かれていた。
「無免許の子供の都市伝説の医師……。
#人喰いのひと仔さん、に新しい噂が付け足されますね。
#正義の味方って。
その患者さんと同じ痛みと症状です。
そして、貴方のご要望どおり、永遠にその身体ですよ。手術代はいりません。
むしろそんなお金ヘドが出る。」
動けない俺の携帯から、写真を削除し、ひと仔さんは去っていった。
#人喰いのひと仔さん。#
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