第4話
夢でも見ているみたい。
むしろ、夢なのかな?
夢かもしれない。
私のベッドの横に、白髪の女の子が立っていた。
「それで、SNSで私のハッシュタグを見つけて手術の依頼をしてきた、と?」
え?
「はじめまして。人喰いのひと仔です。手術の依頼を頂いたので伺えいました。」
「貴方が……ひと仔さん?まだ子供じゃない!」
「確かに十四歳です。」
「十四歳?!」
「えぇ。でも手術出来ます。お金が必要なので、きちんとお仕事します。」
「夢でも見てるのかしら?」
「夢じゃないです。いくら頂けますか?」
「いくら?どうせ死ぬんだもの。裏社会とも繋がってる、私の全財産もその組織でも何でもあげるわ!」
「はぁ。ちなみにどの様な手術をご希望で?」
「見てわかるでしょ?私、末期癌なの。」
「癌の治療ですか?」
「貴方、なんでも手術出来て治せるんでしょ?」
「はい。なんでも手術出来て、なんでも治せます。」
「なら、癌を治して!そして全身整形と性転換手術も!」
「欲張りですね。」
「もううんざりなのよ!私の人生ってなんだったんだろうって……自分の意見や意思を言えば叩かれて、結局周りのイメージや流れに流されてきて、最後までイメージだけの私……。」
「さつきさんは、イメージなのですか?」
「ずっと“さつき”でいなくちゃいけなかった。」
「“さつき”でいなくちゃいけなった?」
「“さつき”でいなくちゃお仕事もない。自分もない。……本当の私はどこ?私は、誰?」
「さつきさんは……さつきさんですよ。」
ひと仔さんは、私の肩を優しく擦ってくれた。
びっくりするほど、その手は冷たかった。
けど、ものすごく優しくて暖かく感じた。
「さつきさんは、さつきさんです。」
自然と涙が頬を伝っていた。
「手術が成功して、癌が治って、身体も性別も変わったらなにかしたい事があるのですか?」
「わからない。でも、違う人生を歩みたい。いつも思ってたの。もし私が“女の子じゃなかったら”?」
「男の人でも、貴方の世界の人達は同じ事を點せられているみたいですよ。」
「……?!」
「すみません。私、人の心の声が聴こえるんです。」
「え?!」
「だから、ここにくるまで、貴方の心の声や、生い立ちが聴こえてきました。」
「貴方、人間じゃないの?」
「中身は人間です。でも、両親は人間じゃないかもしれません。」
「両親?」
「ここにいます。」
ひと仔さんの足元には、布をかぶった犬の様な生き物がいた。
ひと仔さんは、その生き物を抱っこして私に見せてきた。
「……ヒィ!」
「頑張ったんですけどね。ちょっと見た目が怖いかもしれません。」
布を取られた生き物はまるでハダカネズミの様な皮膚を無理やりツギハギで縫われた様な見た目で、左右の目の形も違い、皮膚ごとに色も変色していた。
「私のお父さんとお母さんです。」
「ひと仔さんの……お父さんと……お母さん?!」
「はい。本当は二人はとても大きかったのですが、それだと食費が掛かっちゃうから……だから、ふたりの身体をひとつにすればいいのかなって。なんせ私の初めての手術だったので。お父さんとお母さんの身体を上手くひとつにするのは、とても大変でした。おかげで私、こんな白髪になっちゃったんです。」
「……。」
「勝手にさつきさんの心の声を聴いちゃったお詫びではありませんが、私の事をお話しますね。」
ひと仔さんは、ベッドの横にあったパイプ椅子に座った。
「私のお父さんとお母さんは、きっと人間じゃありませんでした。
正直、あまり私自身、子供の頃の記憶はなくて、物心つく頃から、週に一度だけ来るおじいさんとおばあさんがいました。本当のおじいちゃんとおばあちゃんだと思っていたら、本人達から“違う”と、言われました。
おじいさんとおばあさんから“お父さんもお母さんも、人間しか喰べられないから”と、人間のさばき方を教わりました。
お父さんとお母さんは、人間の形をしていなくて、むしろ人間を喰べていました。
だからいつも、フラフラ歩いている汚い服の大人の人に声をかけてお家まで来てもらって、その人をさばいてました。だから“お料理”とは、言えないかもしれないけれども手さばきと、血がつくから洗濯とお掃除は得意なんです。
だから小学校に入った時、とても驚きました。
自分と同じ“形”の人がたくさんいるって。
それまでは、お父さんとお母さんと、おじいさんとおばあさんと、ご飯となる“人間”しか見た事がなかったのですから。
当然、周りとの違いを感じていたのと、どうやって人と話したらいいのかなんてわからなかったので友達は出来ませんでした。
ある日、“家族での夕飯の絵を描いてこい”って、宿題が出されました。
私は、宿題を出せませんでした。
だって、皆とお父さんとお母さんの“形”が違うんですもの。
しかも、ちゃんと宿題をしたクラスメートの子達のご飯は、見た事のないものばかりでした。
この世の中に、“人間”以外の食べ物が、こんなに沢山あるんだって事を初めて知りました。
だからこそ、もわざと……宿題を出さなかったんです。出せなかったのです。
でも、クラスメートで“れいかちゃん”って、凄く可愛くて皆の人気者で優しい女の子がいたんです。
その子が、私のおうちに来てご飯を作ってくれるって言ってくれたんです。
本当に優しいですよね。
でもね、その時にまた“初めて”だったんです。
れいかちゃんの“口から出ている優しい言葉”と、“心の言葉が違う”て事が。
口では優しく“ご飯を作りに来てくれる”と、言っているのに、もうひとつの声は、
“本当はね、私がもっとクラスの皆や、先生や、お父さんとお母さんからチヤホヤされたいの。
友達がいない人喰さんに優しくして、明日宿題の絵の中に私もいたら、もっともっと皆は私の事、好きになるでしょ?
正直、人喰さんみたいな友達は嫌。
でも、今日だけ我慢して「お友達」になってあげる。”
だから、れいかちゃんがお家に来て、お父さん穫お母さんが我慢できなくて、私がさばく前にれいかちゃんを喰べちゃった時、止められませんでした。
むしろ……清々と清々しい気持ちの私がいて。
あと、初めて子供の肉を喰べて……本当に凄く美味しかった。
いつもクラスメートは給食を食べていたけれども、私は皆にバレないようにお弁当に人間のお肉を持ってきていたから。
おじいさんとおばあさんからは、“人の肉は臭いが強くてキツイから”って、お弁当で持っていく時の調理方法や、それこそ家や洋服の臭いや汚れの落とし方まで教わってはいたけれども。
それで、宿題の絵を描いて学校に持っていったら先生に怒られて、れいかちゃんは喰べちゃったから行方不明ってなっちゃうし。
そのまま精神病院に私は、連れてかれて。
皆と同じご飯は、喰べられないし、お父さんもお母さんもいない。
ある日、施設を抜け出してアパートに行ったらアパートが無くなってました。
調べてみたら火事で全焼したらしくて。
でもわかったんです。
きっとおじいさんとおばあさんが火をつけたんだろうなって。
それで、ある日、おじいさんとおばあさんが迎えに来てくれました。
でも、“里親”として迎えに来たんです。
また、小さなアパートに連れて行かれ、お父さんとお母さんと再会出来ました。
でも、お父さんとお母さんがお腹が空きすぎたのと、私と再開できた嬉しさからか、かなり興奮してしまったみたいで……おじいさんとおばあさんを喰べちゃったんです。
今までは、おじいさんとおばあさんからお小遣いをもらって洗剤とか買っていたのですが、それが今後は出来ないって分かった時に、隣の部屋の医学生の心の声が聴こえてきたんです。
彼が、学校やらアルバイトやらでいない時間に、古いアパートですから窓の扉は簡単に空きました。
これもまた、近所の泥棒や空き巣の声を聴いて、鍵の開け方や締め方を学んだのですが……。
部屋に入って医学を学びました。
だって、れいかちゃんのお家は“歯医者さんでお金持ち”だったから。
同じお医者さんなら、お金がたくさん稼げるんじゃないかなって思ったんです。
正直、れいかちゃんの“さみしい”って心の声も、私には聴こえていました。
“お父さんもお母さんも仕事で忙しいからかまってくれない”
“妹の面倒を見て、いいお姉さん、いい娘さんしまゃなくちゃいけない”
でも、私は全然可哀想に思えませんでした。
だって、その“忙しいお仕事のおかげ”で、れいかちゃんは裕福で人気者なんでしょって。
しあわせで恵まれてるのに、贅沢だなって。
むしろ腹正しかったです。
そして、色々な人の声を聴きながら今の表に出る事のない“人喰いのひと仔さん”として生きるようになったのです。
こんなお仕事ですからお金だけじゃなくて、この手術器具もお客様からプレゼントしてもらいました。
あと、携帯やパソコンやアパートもお客様からのサポートで賄っています。
なので治療費は、口座とか作れないので現金のみで宜しくお願いしますね。」
ひと仔さんは、鞄から書類を取り出した。
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